植物ウイルス
植物には500種以上の植物ウイルスが知られています。
ウイルスはとても小さく単純な構造をしています。
ウイルスは基本的に核酸がキャプシドというタンパク質を被って、棒状、ひも状、球状などの形になっています。
核酸は、体を作る元となる細胞に存在する、新しい細胞を作り出すために必要不可欠な成分で、細胞を作り出す情報を持っDNAと、情報をもとに細胞の材料となるタンパク質を合成するRNAがある。
植物病原ウイルスの大部分はRNA(デオキシリボ核酸)ウイルスであるため、ウイルス核酸を直接解析することは困難である。
しかし、RNAウイルスをDNAシベルで解析、操作することが可能となっている。
RNA(核酸)は、リボースを糖成分とする核酸で五炭糖のひとつで、遺伝情報の伝達やタンパク質の合成を行う。
一番小さな球状ウイルスは直接100万分の20㍉、一番長いひも状のウイルスは直接100万分の11㍉、長さ1000分の2㍉くらいです。
ウイルスは生きている細胞の中だけで増殖できるという点が、カビやバクテリアと一番違うところだろう。
ウイルスは宿主に感染して自分の複製をたくさん作りますが、それに必要なエネルギーやアミノ酸などの原料を、宿主細胞から借用しています。
伝染には昆虫の媒介者が必要な場合が多い。
このため、ウイルスを殺そうとする薬剤は、宿主にも有害な影響を与えてしまうことになるので、ウイルス病を薬剤で治療することは困難です。
従って、ウイルス病は予防が大切であると言えるだろう。
ウイルス病の病徴には多くの形があるが、大別するとウイルスが葉肉細胞などの柔組織で増殖するものと、維管束組織のみで増殖するものとの2つに分けることができます。
柔組織で増殖するウイルスは、モザイク、斑点、輪紋などウイルス病に特徴的な病徴をはっきり現すものが多い。
維管束のみで増殖するウイルスは、黄化、萎縮、葉巻などの比較的はっきりしない病徴を現す。
病徴(びょうちょう)とは、樹木が病原菌に侵されると外部に様々な異常(葉枯、枝枯など)が現れて肉眼でも確認できる、これを病徴という。
これは、養分欠乏症などの生理的障害との区別が難しい場合も多い。
外部病徴
病徴は通常は全身的に現れるが、実験的な接種では接種部位にだけ現れることもある。
病徴はウイルスの増殖の結果であるが、植物体内のウイルスの分布と病徴とは必ずしも一致しない。
無病徴感染
ウイルスに感染していても明らかな病徴が認められない場合は、無病徴感染(潜在感染)という。
植物ウイルスの分類
植物ウイルスは世界では約700種、日本でも少なくとも225種以上が報告されている。
これらについて性質が近い者同士を集めて分類する試みは、1970年代以降、国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって集められてきました。
ICTVでは、植物ウイルスもヒトや動物などのウイルスと同様に、科、属、種という階級分類によって統一的に分類しようとしてきました。
しかし、ウイルスについては種という概念が曖昧で、どのような基準で種を設定すべきかについての議論は絶えない。
そこで現在では、一部のウイルスについては動物ウイルス、昆虫ウイルス、菌類ウイルスとも共通な科が設けられている。
1つのウイルスでも性質の違い、系統や血清型などによって更に分類されることもある。
ウイルスによって起こる病気
モザイク病気
時々白いレースのような模様の入った、チューリップの花(斑入り)が咲くことがあります。
斑入りは昔から愛好家の間で珍重されてきました。
しかし、20世紀になってからこの模様が、モザイク病というウイルスによる病気の症状であることが分かりました。
モザイク病は、ウイルスによる病気の代表的なもので、タバコモザイクウイルス、キュウリモザイクウイルスなどが有名です。
近年では、遺伝的に斑入りの品種を作ったりしていますが、普通のチューリップに混じっているようなものは、ウイルスの感染によるものです。
モザイク模様のチューリップは、葉や茎がねじれたり生育が悪くなったりします。
現在、球根の生産農家では花を咲かせて、モザイク病のチューリップを見つけると抜き取って捨てています。
それはチューリップの球根によって病気が伝染するからです。
ウイルスの伝え方
植物ウイルスは昆虫によって伝搬されるのが一般的です。
アブラムシ(アリマキ)、ウンカ(稲の害虫)、ヨコバイ(セミ類に近い一群)などの虫たちによって運ばれますが、一番重要なのはアブラムシで、160種以上の植物ウイルスを運びます。
アブラムシは多くの植物にモザイク病を起こす、キュウリモザイクウイルスやルテオウイルスを運びます。
✪ルテオウイルス=アブラムシ永続伝搬性であり、植物の師管内部で増殖して、植物体を黄化、萎黄萎縮症などを引き起こすとされている。
衣服や手で触っただけで、接触伝染するタバコモザイクウイルスは昆虫では伝搬されない。
しかし、製品化されたタバコにしぶとく残っていて、農作業を通してトマトやナスに感染することもあります。
稲の萎縮病はヨコバイの卵を経て、次の世代に伝わります。
ウイルスが地中の線虫や菌類によって伝搬されることを、ウイルスの土壌伝搬という。
ウイルスフリー
近年、バイオテクノロジー研究の進展に伴い、種子を利用せず、さし木、株分け、分球などにより増殖される栄養繁殖性の作物の多くが、ウイルスに感染している。
ウイルスに感染した株でも生長点にはウイルスが存在しないため、生長点を培養することにより、ウイルスに感染していないウイルスフリー苗を作ることができる。
イチゴ、株ネギ(在来種)、ジャガイモ、サツマイモ、キク、カーネーションなどでウイルスフリー化された苗が栽培されている。
これらの作物のウイルス病は主に、アブラムシ類によって媒介されるため、ウイルスの再感染を防ぐことを目的として苗の増殖は網室で行われる。
しかし、通常の栽培では圃場(ほじょう=農作物を育てる場所)全体を網で覆うわけに行かず、再感染が大きな問題となる。
近年、種子繁殖性の作物のウイルス病対策も含めて、ウイルス媒介害虫の防除技術の開発や、強毒ウイルスに抵抗性を示す弱毒ウイルスの利用などの保護技術の開発が行われている。