光と反対方向に伸びる
植物の根は地中に向かって、茎は空に向かって成長します。
これは植物が重力の方向を感じとって行う「動力屈性」と呼ばれる反応です。
重力屈性は1985年頃までは「屈地性」と呼ばれていました。
動力屈性には、オーキシンという植物ホルモンが関与しています。
❉オーキシンはほとんど茎に対して根の方向にしか移動しない。
天然オーキシンと合成オーキシンに分類される。
種子が初芽すると根は必ず下に向かって伸びます。
芽の代わりに地上に根が出てくることはありません。
「なぜ根は下に向かって伸びるのか」というその理由の1つは、根には光と反対方向に伸びる性質があるからです。
芽が光に向かって伸びる「光屈性」に対して、これを「負の光屈性」と言います。
しかし、真っ暗な地中でも根は下へ伸びて行きます。
なので、根が下に伸びるのは「負の光屈性」という性質だけによるものではありません。
根には重力を感じ、その方向に伸びるという性質があります。
光のない真っ暗な中で発芽したものを、土中から抜き取って水平に置いておくと、根の先端はやがて下向きに曲がり、下に向かって伸び出します。
これは根の重力に対する反応であり「重力屈性」と呼ばれる性質によるものです。
根が下に向かって伸びる現象は、負の光屈性と重力屈性が支配さているということになります。
植物が、刺激の方向に支配されて運動する性質がある「屈性」には色々ありますが、実際、根が下に向かって伸びることに関しては、負の光屈性と重力屈性であるとされてきました。
しかし、それだけではないことが分かってきました。
そこで考えられるのが「根は水分を求めて伸びるのではないか」という可能性とする、水分が刺激となる「水分屈性」である。
根は水分を求めて伸びる性質がある
土の表面近くが乾いていても、地中深くには水分が存在し、その水分を求めて根は下に向かって伸びて行くのではないかと考えられます。
しかし、地球上には重力があるので、根が水分屈性で下に伸びていることを、重力屈性と切り離して証明する事は難しい。
そのため、水分屈性の関与についてはこれまで言及されてきませんでした。
しかし、近年、主に3つの事実を根拠として、水分屈性の関与がはっきりと認められています。
1つ目は、根が水を求めて伸びる現象で、例えば土の中の排水管などの割れ目から水が漏れていると、根が割れ目に向かって伸びる現象が観察されています。
2つ目は、重力を感じることがない突然変異体が「シロイヌナズナ」という植物で作られたことです。
❉シロイヌナズナとは、アブラナ科の植物で、遺伝子数が少なく、植物として初めてゲノム(遺伝子と染色体)情報が明らかにされているため、現在ではモデル植物(研究用植物)として様々な研究に利用されている。
「シロイヌナズナ」
この突然変異体の根は、重力を感じることはないが、土の中深くに多くの水を求めて、下に伸びて行くということです。
3つ目は、宇宙ステーションでの実験です。
重力のない宇宙ステーションの中でも、シロイヌナズナの種子は発芽し、根が下に伸びたということです。
この時、発芽した芽生えの下には、岩石を加工して水を含むようにしたロックウール(保温材等として使用される)という物が置かれていましたが、無重力にも関わらず、根はロックウールに含まれた水を求めて伸びたのです。
地球上では重力があるため、水分屈性という性質が見えにくいが、無重力の宇宙でははっきりと水分屈性が示されたということです。