緑のお医者の徒然植物記

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緑のお医者の徒然植物記

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2021/06/27

キハダの木 No,509

 キハダ ミカン科「黄檗」

別名=オウバク 「黄檗、黄柏」

北海道から九州、朝鮮半島などの山地に自生する落葉高木で、樹高は20㍍を超えるものもある。

幹の内皮が鮮やかな黄色なのでこの名がある。

古くからこの色を利用して、青味のある黄色用の染料に利用したと言う記録がある。

また、別名のオウバクはこの内皮の部分をいい、苦味健胃剤として実用的な利用があるが、顔をしかめるほど苦い。




花と果実

雌雄異株で、5〜6月頃新しく伸びた枝先に長さ30cm前後の円錐花序を出し、あまり目立たない黄緑色の小さな花が多数開きます。

果実は径1cm程の球形で秋に黒く熟します。

落葉した後も果実は萎びたまま枝に残る。

葉の特徴

葉は対生し、先端が尖る楕円形で、長さ6cm前後。

縁は全縁で裏面に白味を帯びる。

生育環境、植栽利用

庭木としての利用はほとんどありませんが、植物園などでは稀に植えられています。

山野では日当たりが良い斜面地などで見ることがある。

排水が良く、やや湿り気のある土壌が適します。

自然な樹形が基本で、からみ枝や長過ぎる枝を切り戻す程度に仕立てる。


キハダの効能(薬用樹)

奈良では、吉野地方発祥の胃腸薬陀羅尼助丸(だらにすけがん)に配合されていることで、長年親しまれてきた。

樹皮を煎じ洗眼すると目の充血、ただれ目、結膜炎、その他の眼病に効果がある。

キハダの樹皮から取れる黄檗(おうばく)は、貴重な薬用資源であり、江戸時代には無断で伐採することを禁じていた。

現代でも貴重な樹であることに変わりはない。

植えてから薬用にするためには20年程度の年月が必要で、若木はよく鹿に狙われて食べられてしまうため、注意を要する。

キハダは東洋医学の最古の生薬学書「神農本草経」(しんのうほんぞうきょう)に収載されているが、日本ではすでに縄文時代から使用されてきた。

縄文時代の遺跡からも、樹皮が薬用に保存されていたと思われる状態で発掘されている。




2021/06/26

ハマボウ No,508

 ハマボウ アオイ科フヨウ属

常緑小高木 「✫浜朴✫黃槿」

神奈川県の三浦半島以西から沖縄などの、潮の干満がある海辺の河口などに生える、塩生植物、半マングローブ植物とも呼ばれる。

名前はよく似たオオハマボウのハワイの呼び方である「ホウ、how」から出たもので、浜辺に自生することによるとする説がある。

一方、牧野富太郎博士によれば和名は浜辺に生えるホオノキの意に取られ「浜朴」と書くが「ホウ」の意味は不明とし「フヨウ」の転化ではないかとしている。

もう一つの漢字名「黄槿=黄色の槿·ムクゲ」も誤用であろうとしている。

✿牧野富太郎関連記事No,396
「植物を愛し続けた博士」参照


大きなものは高さ6㍍程になるが、通常は2㍍ほどの木が多い。

砂泥の堆積した場所に群落を作ることもある。

黄色の花は「一日花」で朝咲いた花は夕方には萎んでしまう。

これはアオイ科によく見られる咲き方の特徴です。


開花期は7〜8月頃で、枝先部分の葉腋から次々に花が開きます。


花は同属のハイビスカス、ムクゲ、フヨウ等に似た形で、5個の花弁がある花は黄色で、中心部は暗赤色です。

果実はさく果で先端が尖り、5つに裂けて種子が出ます。

木材は、キクラゲ原木栽培のホダ木に使われ、樹皮の繊維をロープに利用した。

かつては園芸用に栽培されることもあった。



                                       「ハマボウ」


類似種

オオハマボウはハワイや台湾などに自生し、樹高、花ともハマボウより大型で、花は同じ黄色だが、夕方には赤く変色する。

葉の基部を見ると、深いハート型になるので区別できる。

日本では、小笠原や屋久島以南の海岸に生えている。


                             「オオハマボウ」


生育環境

潮風や強風に強く、海辺では暴風や砂防林として利用されることがある。

よく葉を茂らすので生け垣に利用することもできる。

日当たりが良く排水の良いことが場所に適します。

岩場のような場所に自生があるように、乾燥に強くまた、土質も選びません。

日陰地でも育ちますが、木漏れ日ぐらいの日当たりは必要です。

次々に花を咲かせるには、枝先部分を切り過ぎないことが大切です。

殖やし方は挿し木と実生によります。


絶滅危惧植物

護岸工事や河川改修などの影響により、ハマボウの生育地は減少の一途を辿っており、絶滅危惧種、或いは準絶滅危惧種に指定されている府県も多く、地域によっては消滅した群落もある。



市町村のシンボルとしての指定樹

徳島県鳴門市の花(1983年)

和歌山県御坊市の花木(1994年)

福岡県糸島市の花(2011年)

長崎県西海市の花木(2009年)

熊本県天草市の花(2009年)

植物保護と両立した人類の生き方を正し、考えなければならない時代に来ている。

主な天然記念物のハマボウ

自生地では天然記念物に指定され保護されている。

鹿児島県南さつま市
万之瀬川河口域  (国定天然記念物)

福岡県糸島市(市指定天然記念物)
泉川のハマボウ

神奈川県横須賀市(県指定天然記念物)
天神島のハマボウ

伊豆下田市(市指定天然記念物)
大賀茂川河口のハマボウ







2021/06/25

剪定の基本 (花木、実物類) No,507

 庭全体のバランスを考える

たくさんの花が咲いても、実が着いても、庭の景色に合わない樹形になってしまっては、庭というものは駄目になってしまいます。

そうは言っても、花木や果樹を植えてるのに、花も実も着かなくて良いという事はありません。

庭の楽しみの一つとして、花木、実物類のせん定は一本の花木、果樹ではなく庭を構成している景色の一部であるので、第一に考えるところは樹形です。


せん定の時期(花物)

造園業者や植木屋は“花物は花後にすぐせん定すれば来年も咲くよ”などと言いますが、樹種によりせん定時期が違うものがあります。

樹種によっては休眠期間中であれば、どの位置で切っても開花します。

モクセイ、キョウチクトウ、サルスベリ、ムクゲ、フヨウなどがその樹種です。

その他の樹種は開花後のせん定で構いませんが、安全に行うなら休眠期間中に花芽がはっきりと確認できるものは、その期間中にせん定を行えば花芽を残すことができます。

樹木を大きくしないためのせん定

花木のせん定は、休眠期間中に行うのが一番良い方法のように思われますが、毎年この方法でせん定していると、花芽をなるべく多く残したいためにせん定する枝量が少なくなり、年々木が大きくなり、庭に対しての樹木の大きさがバランスの悪いものになってしまいます。

そこで必要となるのが、樹を大きくしないで花も見る方法として、開花後のせん定となります。


早春の花木は休眠期せん定

早春に開花するウメやコブシ、ハクモクレンなどは、樹形を乱す徒長枝には花芽がつきにくいので、休眠期間中に樹形を整えるせん定をする場合が多くあります。


花後せん定
花木は透かしせん定

サツキ、ツツジ類では刈り込みせん定と、透かしせん定の二通りの方法がありますが、花木には透かしせん定が有効ですが、庭でも公園や街路でも刈り込みが多いと思います。

公園や街路のサツキやツツジはよく花が咲くのに、庭のものは咲かないと思う事も多い。

サツキやツツジは陽樹であるにも関わらず家の北側や、狭い庭の中で中高木の側に植えられ、日照不足で花が咲かない場合が多いと思われます。

こんな時は毎年刈り込んている輪郭線から伸び出た枝を輪郭線よりも低く奥で切り、透かしせん定します。

頂芽に花芽をつけるサツキやツツジ類は、こうすると輪郭線に残る枝は先端部を切らないので、花芽をつけやすくなります。

その他の花木せん定

樹冠輪郭の内側奥に突き出した枝を切り、輪郭線付近の枝は濃淡を均一にするだけに止め、切り過ぎないようにします。

そうすると頂芽や側芽、短枝など、花芽のつきやすい部分が切られずに多く残るので樹形も整う。

開花直後のせん定でも、枝の先端部を全部切られてしまう刈り込みせん定よりは、透かしせん定の方が先端を切られない枝が多く残るので、花芽もつきやすくなります。


せん定(実物)

花物と同じく、花を多くつけ実をつけされる。

実物類のせん定も花物と同様のせん定を行います。

花が咲かなければ実もつきません。

樹種によっては花が咲いても実がつきにくい樹種もあります。

「雌雄異株」の樹種で、雌木と雄木が別株の場合は、一般的に市販されているのは雌木が多く、少しは活着しますが着かないことが多いので、近くに雄木を植えると良いでしょう。

「ヤマモモ」も雌雄異株ですが、この木の場合は植木屋が扱うのは殆どが雄木であるため実がつかない。

「雌雄同株」は雌と雄を一つの株で持っているので、開花すれば結実するのが当然と思われますが、結実しにくい品種もあります。

このような場合は、近くに同じ品種のものを植えても結実しません。

樹種は同じでも品種の違うもの、花粉が多い受粉樹として向いている品種、更に開花時期が同じ品種でなければ意味がありません。








2021/06/24

ポーポー(ポポー) No,506

 ポーポー バンレイシ科

英語名=pawpaw

アケビに似た果実の落葉小高木

北アメリカ東部原産
日本へは明治時代に渡来し、戦後は害虫がつきにくい事から広く普及し、一時はブームとなった事もあったが、果実が日持ちしない事や輸入植物の時代背景もあり、次第に流通果実としては姿を消していきました。

果樹としての利用があり、本州から九州にかけて植栽できます。

樹高は大きなもので10㍍ぐらいに達しますが、通常は5㍍前後に育つものが多い。

今では栽培農家も少なく「幻の果実」と呼ばれる。




主な特徴

大型の葉は互生し、先端が少し尖る卵状、楕円形で長さ15〜30cmと大きい。

葉質が薄く、葉柄の付け根には黒褐色の毛がある。

秋になると鮮やかに黄葉する。

開花期

4月から5月、葉が開くより早く枝先に近い部分から、径3〜5cmの黒褐色の両性花が咲きます。

雌しべの方が早く成熟する性質があります。

果実

アケビに似た形と大きさで秋に黄色く熟しますが、アケビのように割れることはありません。

バナナに似た甘みがあり、栄養価も高く生食できる。

この果実でワインを作るという例もある。

自花不和合性が強く、果実を楽しむには複数の植栽か、人工授粉が必要になります。

花が開いて3〜5日経過した頃、花が紫色に変わった頃が受粉の目安です。

実生苗の場合、結実するまでに5年から6年が必要である。


樹形

整形的な樹形になるので、洋風の雰囲気に適しています。

広い場所があれば複数で利用したい果樹です。

隣接する庭木とは2〜3㍍以上の間隔を取り植栽します。

自然樹形に見られる直立する幹と、横に広がる枝の樹形が基本です。


生育環境

日当たりが良い場所で、通気性に優れたやや湿り気のある土壌が適しています。

降雪地では枝が折れないようにする工夫が必要です。


病害虫

少ない方ですが、カイガラムシが発生することがあります。

風通しを良くすることが大切です。


肥料(施肥)

土壌が痩せている場合、果実を楽しむには堆肥に、有機質肥料を混ぜるなどの土壌改良が必要です。

殖やし方は実生と挿し木で殖やします。


せん定

落葉期の12月から1月頃にせん定を行います。

前年に伸びた枝の基部に花芽をつけるので、伸びすぎた枝を切り詰めます。

混み合った枝も切り取り、樹冠内に光が当たるようにします。


ポーポーの効能

ビタミンCを多く含む果実で、老化や癌の原因とされる活性酸素を、自ら酸化される事で身体を酸化から守る。

オーストラリアには一家に一本あると言われるポーポーの木。

擦り傷、やけど、アザ、ひび割れ、アトピー、肌荒れなど多くの効能があり、高い保湿力からリップバームや保湿クリームとしても有能であり、赤ちゃんのおむつのムレによる肌荒れにまで使え、天然成分でできた軟膏のため万人に愛されてきた。





2021/06/23

シナヒイラギ No,505

 シナヒイラギ モチノキ科

英名=チャイニーズ·ホーリー
別名=クリスマス·ホーリー、ヒイラギモチ、ヒイラギモドキ

常緑小高木「 支那柊」

原産は中国で、日本では本州、四国、九州で植栽できます。

株立ちになり、樹高は5㍍ぐらいまで生長する。

庭木としては2㍍前後までが適します。

葉には鋭く尖るトゲ状の鋸歯があり、ヒイラギ同様、老木になるに連れてトゲが少なくなる傾向がある。

雌雄異株で、春に前年枝の葉腋に黄緑色の小さい花を咲かせます。

果実は球形で1cm程の大きさで、秋になると赤く熟します。





主な類似種

名前が似ているヒイラギは、モクセイ科で葉が対生だがシナヒイラギの葉は互生である。

斑入りの品種として「オースプリング」などがあります。

また、クリスマスの飾りとして利用されるホーリー類は同じ科に属し、紅い果実が実ります。


葉のトゲに触れると痛いので、観賞用に用いる場合は、手足などが触れにくい場所を選びます。

生け垣に利用することもありますが、通路との間に他の低木を植えると直接触れない効果があります。


           「 斑入り品種のオースプリング」


生育環境

半日陰程度の日当たりの場所が適します。

土壌は肥沃なことに越した事はありませが、余り土質を選びません。

自然樹形は半球形状になります。

生け垣は刈り込みやすい1.5前後までが適してます。


病害虫

病害では、葉に褐色の斑点状の病斑が出斑点病が発生します。

ベンレートなどを散布して予防します。

虫害ではハダニ類、カイガラムシ類の被害に気をつけます。

ハダニ類には専用の殺ダニ剤を葉の裏を中心に散布します。

カイガラムシ類は幼虫の時期はスミチオンを散布しますが、成虫になると薬剤が浸透しにくくなるため、効果が余り出ないので捕殺します。

冬期にマシン油乳剤を使って成虫を駆除できます。

殖やし方は実生、園芸品種は挿し木で殖やします。







2021/06/22

植物の生理、生態 No,504

 春植物

春、まだ他の樹木が葉を展開する前に生育活動を開始して開花し、他の樹木が葉を広げて本格的に活動を始める時には、すでに結実して年間の生活の殆どを終え休眠する植物があります。


この様な植物は「春植物」と呼ばれ、その可憐な美しさから「春の妖精」とも呼ばれます。

その仲間にはキンポウゲ科のキクザキイチゲ、ニリンソウ、イチリンソウ、ケシ科のエンゴサク類、ユリ科のカタクリ、アマナ、ヒメニラなどが知られています。


これらの種は、冷温帯落葉広葉樹林の明るい林床を中心に生育しますが、上方を覆う樹木に先駆けて早期に活動を始めることで、生育に必要な光を十分に得て、効率よく光合成を行うことができます。


他種との競合を避けて光を得ていることは、特殊な生育形態と言える。

河野昭一氏(1988年)によれば、6500年前から始まる第三紀の温暖期にはブナ科、カバノキ科、カエデ科、ニレ科などの落葉樹の植物群(フロラ)が高緯度地方(南極や北極に近い)に侵入していた。

✫河野昭一(かわのしょういち)
植物学者(京都大名誉教授)2016年没

✪第三紀とは、地質時代区分の一つで、6500年前から第四紀に入る164〜170年前までの期間。

国際地質科学連合は「非公式用語」に位置づけている。

「三記層」と呼んでいたこともある。

この時期にはすでに落葉樹と春植物との結びつきは形成されていたと言われている。

これらの種は、生活形区分では地中植物、半地中植物と呼ばれ、地上部に比べて地下部に、遥かに大きな貯蔵器官を持っている。

これにより早春に急激に光合成器官を発達させることができるのである。

春先に可憐な花を咲かせる「カタクリ」は、種子発芽後毎年一年間の増加分を地下部の貯蔵器官に蓄積し、8年目にやっと開花、結実する。 





春植物は低木が殆ど無い海外の落葉広葉樹林では、林床面に花のじゅうたんを形成するが、常緑性の笹が林床を覆うことの多い日本の落葉広葉樹林では、林縁部に生育場所を移して生育することが多い。


日本では古くから様々な形で、森林に人手が入り、伐採、薪採取を繰り返しきました。

更に、里山では肥料とするための落ち葉の掻き取りが行われたことで、笹の生育を阻止してきました。

長い年月をかけて行われてきた作業は、林内を明るく保ち、春植物に対しては良好な生活環境を与えていました。


しかし、燃料や肥料供給源としての森林利用が停止し、人手不足による管理放棄が重なった低地の里山では、ササ類とシラカシ、シロダモ、アオキなどの常緑樹が成長して暗い林床を作る事になった。

その結果、年間を通して暗い林床環境となって、春植物は生活の場所を失うことになったのです。


絶滅危惧植物を載せた「レッドデータブック」によれば、日本に生育する顕花植物(花を咲かせ、実を結び、種子ができる高等植物、種子植物)が絶滅したか、絶滅危惧あるいは危急植物に指定されているが、春植物のほとんどがそれに指定されている。

植物保護のあり方について、真剣に検討する必要がある時に来ている。

それは必要とされる薬効植物を保護する事でもあるのです。

日本列島には、樹木や草花など約7000種もの種子植物、シダ植物が自然の中で生育していると言われています。

この内の約4割、2900種は日本にしかない植物であるとされている事から、どんなに自然豊かなのかがよく分かります。

しかし、環境破壊が進み、自然環境は悪化の一途を辿っているのです。


植物Ⅰ

野生絶滅 レッドリスト
ヒュウガシケシダ=メシダ(イワデンダ)科
コブシモドキ=モクレン科
エッチュウミセバヤ=ベンケイソウ科
リュウキュウベンケイ=ベンケイソウ科
オオカナメモチ=バラ科
ナルトオウギ=マメ科
オリヅルスミレ=スミレ科
リュウキュウアセビ=ツツジ科
タモトユリ=ユリ科
サツマオモト=ユリ科
タイワンアオイラン=ラン科
キバナコクラン=ラン科