緑のお医者の徒然植物記

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2021/06/22

植物の生理、生態 No,504

 春植物

春、まだ他の樹木が葉を展開する前に生育活動を開始して開花し、他の樹木が葉を広げて本格的に活動を始める時には、すでに結実して年間の生活の殆どを終え休眠する植物があります。


この様な植物は「春植物」と呼ばれ、その可憐な美しさから「春の妖精」とも呼ばれます。

その仲間にはキンポウゲ科のキクザキイチゲ、ニリンソウ、イチリンソウ、ケシ科のエンゴサク類、ユリ科のカタクリ、アマナ、ヒメニラなどが知られています。


これらの種は、冷温帯落葉広葉樹林の明るい林床を中心に生育しますが、上方を覆う樹木に先駆けて早期に活動を始めることで、生育に必要な光を十分に得て、効率よく光合成を行うことができます。


他種との競合を避けて光を得ていることは、特殊な生育形態と言える。

河野昭一氏(1988年)によれば、6500年前から始まる第三紀の温暖期にはブナ科、カバノキ科、カエデ科、ニレ科などの落葉樹の植物群(フロラ)が高緯度地方(南極や北極に近い)に侵入していた。

✫河野昭一(かわのしょういち)
植物学者(京都大名誉教授)2016年没

✪第三紀とは、地質時代区分の一つで、6500年前から第四紀に入る164〜170年前までの期間。

国際地質科学連合は「非公式用語」に位置づけている。

「三記層」と呼んでいたこともある。

この時期にはすでに落葉樹と春植物との結びつきは形成されていたと言われている。

これらの種は、生活形区分では地中植物、半地中植物と呼ばれ、地上部に比べて地下部に、遥かに大きな貯蔵器官を持っている。

これにより早春に急激に光合成器官を発達させることができるのである。

春先に可憐な花を咲かせる「カタクリ」は、種子発芽後毎年一年間の増加分を地下部の貯蔵器官に蓄積し、8年目にやっと開花、結実する。 





春植物は低木が殆ど無い海外の落葉広葉樹林では、林床面に花のじゅうたんを形成するが、常緑性の笹が林床を覆うことの多い日本の落葉広葉樹林では、林縁部に生育場所を移して生育することが多い。


日本では古くから様々な形で、森林に人手が入り、伐採、薪採取を繰り返しきました。

更に、里山では肥料とするための落ち葉の掻き取りが行われたことで、笹の生育を阻止してきました。

長い年月をかけて行われてきた作業は、林内を明るく保ち、春植物に対しては良好な生活環境を与えていました。


しかし、燃料や肥料供給源としての森林利用が停止し、人手不足による管理放棄が重なった低地の里山では、ササ類とシラカシ、シロダモ、アオキなどの常緑樹が成長して暗い林床を作る事になった。

その結果、年間を通して暗い林床環境となって、春植物は生活の場所を失うことになったのです。


絶滅危惧植物を載せた「レッドデータブック」によれば、日本に生育する顕花植物(花を咲かせ、実を結び、種子ができる高等植物、種子植物)が絶滅したか、絶滅危惧あるいは危急植物に指定されているが、春植物のほとんどがそれに指定されている。

植物保護のあり方について、真剣に検討する必要がある時に来ている。

それは必要とされる薬効植物を保護する事でもあるのです。

日本列島には、樹木や草花など約7000種もの種子植物、シダ植物が自然の中で生育していると言われています。

この内の約4割、2900種は日本にしかない植物であるとされている事から、どんなに自然豊かなのかがよく分かります。

しかし、環境破壊が進み、自然環境は悪化の一途を辿っているのです。


植物Ⅰ

野生絶滅 レッドリスト
ヒュウガシケシダ=メシダ(イワデンダ)科
コブシモドキ=モクレン科
エッチュウミセバヤ=ベンケイソウ科
リュウキュウベンケイ=ベンケイソウ科
オオカナメモチ=バラ科
ナルトオウギ=マメ科
オリヅルスミレ=スミレ科
リュウキュウアセビ=ツツジ科
タモトユリ=ユリ科
サツマオモト=ユリ科
タイワンアオイラン=ラン科
キバナコクラン=ラン科