新たに芽生える植物細胞の能力
樹木は材木として利用されたり、間引き(間伐)のために地上部を幹の根元(基部)で伐採されることがあります。
しかし多くの場合、伐採されたとしても樹木の切り株はそのまま生涯を終えることはありません。
地上部の幹を切られても土の中で根が生きているので、水や養分が運ばれ、残された切り株から芽が再び出てきます。
再び切り株の幹から出てくる芽生えは「ひこばえまたはやご」と呼びます。
「ひこ」とは孫のことでひこばえは「孫が生えてきた」という意味になります。
このひこばえには、そのまま樹木として成長できる能力があります。
しかし、なぜ芽のない切り株からひこばえがでてくるのか?
これには、幹を作っている細胞が持っている能力によるものです。
植物の細胞はそれぞれ、部位にふさわしい形や働きをしていますが、更にそれぞれの個体が1つの個体を作る能力を持っているのです。
その能力を『分化全能性』という。
植物の細胞が分化全能性を持つことは、1958年にアメリカの植物学者F.C.スチュワード等によって示されました。
スチュワードは、人参の食用部である根を構成する1個の細胞を取り出して、人工的に用意した適切な条件のもとで育てました。
すると、細胞が増殖して細胞の塊(かたまり)になりました。
これは、根や茎の一部になっていた細胞が分化していない状態に戻ったもので「カルス」と呼ばれます。
「樹木のカルス形成、切り口を塞ぎ始める」
更にこのカルスを適当な条件でそだてると、カルスから根、茎、葉などが作られてきて、完全なニンジンの植物体が出来上がったのです。
こうして、一個の細胞からでも植物の体は再び作り上げられることが分かりました。
これが細胞の持つ分化全能性と言われる能力です。
つまりひこばえは、切り株の断面にある細胞が分化全能性によって芽を出したものなのである。
このひこばえは、切り株の中央部分からはほとんど生まれず、切り株の周囲から多く出ます。
それは切り株の周囲には若い元気な細胞があり、切り株の中央部分は歳を重ねた古い細胞でできているからです。
「切り口の周りから出る新しい芽」
植物の細胞の分化全能性は、茎や枝を切っても水の入った容器に挿しておくだけで、発生を見ることができます。
日が経つと、茎や枝の切り口から根が生え出てくる植物は多くありません。
本来なら根を出すはずのない茎の切り口から、新しい根が、生まれてくるのです。
この力を利用したのか「挿し木」です。
分化全能性という能力が挿し木を可能にしているのです。
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