緑のお医者の徒然植物記

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緑のお医者の徒然植物記

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2020/10/01

カクレミノ No,292

 カクレミノ ウコギ科 常緑中低木

別名=ミツデ 「隠れ蓑」

葉の形が雨具の★ミノに似ていることからカクレミノと呼ばれる。

★蓑(ミノ)とは=藁や茅や菅(スゲ)などを編んで、体を覆う様に作った雨具。雨傘も作られた。

若木では葉が3裂するものが多く、ミノに似た形をしているが、花が咲くような成木では楕円形や卵形になるものが多く、縁は全縁となる。

同じ科のヤツデと比べて葉葉それほど大きくなく、3つに分かれることが多い事から「ミツデ」と言う別名もあります。


          (ヤツデ)


日本原産の暖地性植物で、自生地は九州、四国、本州南部ですが、石川県、ふ福島県以南、関東以西で栽培可能です。

日陰にもよく耐えて育つので、家の北側や日当たりのよくない玄関脇、窓の目隠しなどによく利用されます。

カクレミノは葉の変化が大きいのも特徴で、幼苗の頃は切れ込みがありません。

生長するにつれて3~5つ程の切れ込みが入った、独特の掌状葉(しょうじょうよう)になります。

特に、古木になると再び切れ込みがなくなり、卵形の楕円形の葉が増えます。

これは日照と関係があるようです。

一般に林の中のような暗い場所では、下の葉にも日が当たりやすいように、切れ込みのある葉が形成した方が有利であり、充分に光が当たる状況になると、厚くて面積の狭い葉を付ける事が、有利であると言われています。

日陰、半日陰に植えられる事の多いカクレミノは、効率よく光を吸収するために、葉形を変えているようです。


         (カクレミノ)


近年の研究によると、相対照度が30%以下になると掌状に分かれる葉が増えることが分かっています。

品種は少なく、通常のカクレミノの他に葉に黄色い斑点の入る、フイリカクレミノがありますが、一般の園芸店ではなかなか入手が難しいようです。

◆病害虫
まれにカイガラムシが発生します。

成虫になる前の5月から6月頃に、葉や幹を中心に薬剤散布をします。

カイガラムシの排出する分泌物は、葉や茎の部分に「スス病」を発生させます。

同じくスス病も葉の全体に薬剤を散布します。

◉黒斑病、スス病
日当たりと風通しをよくする事が大切です。

茂った枝のせん定をして、木全体の風通しをよくしてあげます。

周囲の大木などで覆われている場合は、その大木の枝を切り落とし、日光が当たるように改善します。

スス病も日当たりや通風の悪い所、高温多湿を好むのでせん定をして予防しましょう。

◉生育管理、環境
環境適応力が高く、日陰でも日当たりのよい場所でも元気に育ちます。

特に日陰に強く、大気汚染にも強いにで、都市近郊の庭木としては理想的な樹木と言えるでしょう。

ただし、カクレミノにとって最も好ましい環境は、やや湿潤性がある半日陰の場所です。

耐寒性は強い方ですが、最低気温が0℃以下になることがある地方では、日当たりがよい場所の方がよく育ちます。

立ち性で枝分かれが比較的少ない樹種なので、2~3本を寄せ植えにするとよいでしょう。

◉せん定
生長は早くありませんが、放任しておくと3~4㍍の高さに、なかにはそれ以上になるものもあります。

樹高くなるにつれて下葉が落ちてくるので、2~3年に一度、思いきって強いせん定で刈り込み、低木(2㍍前後)として仕立てるとよいでしょう。


萌芽力が強いので、切り戻した所から芽が吹いて樹高を適度に保つ事ができます。

枝が密生すると細いものは枯れるので、早めに枝透かしをして、風通しをよくすることが大切です。

整姿、せん定は3月下旬から10月まで可能です。

秋に刈り込んでも芽吹きますが、新梢は冬に寒害で枯れ込む恐れがあるので、暖かい地方以外では刈り込みは、秋口までに済ませるのがよいでしょう。

若木のうちは、よく枝が伸びますので葉が多く茂ります。

他の木の邪魔になる程になったら、カクレミノのような広葉樹類は、春から秋の間にせん定を行います。

せん定では、それぞれの枝の2~3芽を残してせん定し、木のふところの込み過ぎる枝は、間引きをするように切り取り風通しをよくします。

根元にひこばえが出るようであれば、早めに切り取ります。






2020/09/30

タケ、ササ類 No,291

 タケ、ササ類

原生種は熱帯植物ですが、自生種も多く古くから人類の生活に欠かせない存在となっています。

タケは日本から東南アジア、インドにかけて幅広く分布し、アフリカ中南米にも見られる「イネ科タケ亜科」の植物です。

世界中で千百種類以上あり、日本に自生しているものだけでも、タケ、ササを合わせて240種にもなります。

タケは様々な竹製品をはじめ、食用、鑑賞用、治水、防災のための植栽と幅広く、活用されてきました。

最古の小説と云われる竹取物語から始まり、数多くの文学作品や美術作品に多く描かれています。

広い庭では「モウソウチク」のような大型のタケを鑑賞出来ますが、一般家庭ではあまり大きくない、クロチク、ホテイチク、キンメイチクなどが人気です。

タケとササを分けて呼んでいますが、植物学的にはもう少しそれぞれの特徴によって、分類されていますが両者の違いはありません。

樹高の高いものがタケ、低いものがササと言うのが一般的なイメージですが、タケノコが生長していく過程で節間に付いている皮が、剥がれて脱落するものをタケ、脱落せずに皮が残っているものをササとする分け方もあります。

この分け方だと、背の低いオカメザサはタケ、背の高いメダケはササと言うことになります。

地上茎が広がらずに株立ちタイプで増えていく、熱帯原産のタケを「バンブー」と呼びタケ、ササと区別しています。

日本に自生している「ホウライチク」はこの仲間になります。


 (タケとササが混植されていることも多い)


◆代表品種
※タケ類として
モウソウチク、クロチク、シカクダケ、ナリヒラダケ、ホテイチク、オカメザサなど

※ササ類として
クマザサ、カンチク、ヤダケなど

※バンブー類として
ホーオーダケ、スホーダケ、ホウライダケなど

◉病害虫
テングス病、スス病などが発生することがある。

テングス病は病変した枝を切り取り、伝染防止のため処分します。

スス病は、元になるアブラムシ、カイガラムシなどを駆除すれば問題ありません。

大量発生した場合は、発生初期の5月から9月に10日おきに2~3回、葉の部分を中心に薬剤を散布します。

枝葉が混んで日当たりや風通しが悪いと、発生するので生育環境を改善することが大切です。

特に混んだ古株を間引いたり、葉の茂り過ぎている所の葉を、葉刈りして風通しをよくします。


◉生育管理、環境
元々荒れ地に生息していた植物なので、土質はあまり選びません。

半日陰でもよく育ちますが、日当たりがよい枝葉の方が色艶が増します。

品種が豊富なので適した種類を選べば、北海道から沖縄まで日本全国で栽培可能です。

全般的に水を好むので、乾燥に注意しましょう。


◆肥料
有機質を主体に少量の化成肥料を混ぜるか、または油粕7に骨粉3の割合で混ぜたものに、リン酸を含む化成肥料を少し加え溝を掘って与えます。

時期は春先か8月から9月頃です。

◉植え付け、植え替え
タケ類の植え付け時期はタケノコの出る1ヶ月前頃で、植え穴を大きく掘り堆肥や腐葉土を多めにすき込み、元肥に鶏ふん、牛ふんを主体に少量の油粕などを混ぜるとよいでしょう。

また、植え付け後は支柱を立てます。

十分に水を与え、根元に敷きワラなどを施し、乾燥させないようにします。

品種により、春にタケノコが生えるものと、秋に生えるものとがあるので、植え付け、植え替え時期はそれぞれ異なります。

モウソウチクは3月から4月、シカクダケ、カンチクなどは秋から冬にかけてタケノコを出しますので、8月から10月が植え付けの適期になるので、季節に注意しましょう。


          (ササ)

◉せん定
若々しいタケの状態を保つためには、4年から5年以上経った古い悍(かん=一般の樹木の幹)を根元から切り取り、若い悍に更新する必要があります。

タケの年齢の見分け方は、小枝の落ちた跡を数えて判断します。

タケは一般の樹木のように、幹が生長して年々太くなったり、伸びたり枝葉が張り過ぎると言う事はまずありません。

悍の更新以外は大きな整姿、せん定は行わず自然形を鑑賞するのが一般的です。

ただし、モウソウチクなどの大型種は、伸び過ぎないように「先止め」をします。

タケが希望の高さまで生長したら、枝の出る節をいくつか残してその上を切ります。

「先止め」すると丈が伸びる代わりに枝葉が充実します。

また、枝葉が茂り過ぎてしまった場合は、重なり合う枝を整理して、小枝も短めにきり戻す枝透かしを行うとすっきりします。

中型のナリヒラダケは2~2,5㍍で先止めし、上から5~6節の枝は残して、他は切り落とします。

残した枝は半分程に切り詰めて仕立てます。

せん定な時期は3月~4月と9月~11月に行います。品種により、せん定時期が異なるので注意が必要です。

◉殖やし方
株分けは、大型のものは悍を1本、中型は3本
小型は5本を1株とし、掘り取り悍と枝をバランスよく切り詰めます。

細い根が乾燥しないように注意しながら植え付けます。
タケは根付いてしまえば丈夫でよく育ちますが、移植はわりと難しい性質があるので、細心の注意が必要です。

移植、繁殖の時期は3月~4月と8月~9月と品種により、タケノコが生える時期の違いで異なる。






2020/09/29

モクセイ No,290

 モクセイ モクセイ科「木犀」

別名=ギンモクセイ、千里香 常緑広葉花木

原産地=中国中南部の暖地性植物ですが、日本でも東北南部くらいまでは植栽可能です。

庭などに植えられ、各地で幅広く親しまれている花木です。

日本で多く見かけるのは橙黄色(とうこうしょく、とうおうしょく)の花を付ける「キンモクセイ」ですが、香りがやわらかい白い花を咲かせる「ギンモクセイ」がキンモクセイ原形種です。

香りが強く、甘い芳香が遠くまで漂う事から「千里香」と言う別名があります。

★その他の品種として
※キンモクセイよりも淡い黄色の花を付けるウスギモクセイ

※同じモクセイ科のヒイラギとの雑種と言われ、生け垣などに用いられる、ヒイラギモクセイなどが園芸種として知られています。

これらが広く親しまれる様になったのは、江戸時代以降の事です。

最も広く知られている、キンモクセイとウスギモクセイを混同する人が少なくありませんが、キンモクセイは日本では結実しないので、庭のモクセイが実を付けた場合は、ウスギモクセイだと分かります。

中国名は「桂花=けいか」と言い、単に木犀と言う場合は、ギンモクセイ(銀木犀)を指す事が多い。

よい香りを漂わせる花木の中でも特に、香りの強いジンチョウゲ、クチナシ、キンモクセイの三種は、三大香木(芳香花)と呼ばれています。





◉生育管理、環境
モクセイの仲間はどれも強い香りを放つ花を付け、樹勢も強い事から栽培は比較的容易です。

本来、日なたを好む陽樹ですが、日陰によく耐え、土質もあまり選びません。

しかし、花つきを良くし芳香を楽しむには、日照、排水のよい腐植質に富んだ肥沃な場所が最適です。

モクセイは排気ガスなどの公害にはあまり強くありません。

車の往来が激しい場所への植え付けは、避けた方がよいでしよう。

枝葉が元気な様でも、花つきが悪くなってしまいます。

◆肥料
本来モクセイは丈夫な樹木です。

肥料は春先の3月上旬に油粕と、粒状化成肥料を等量混ぜたものを、根元の大きさに応じて与えればよいでしょう。
(目安として1~3握り)

むしろ肥料は控えめにし、与え過ぎないようにしますが、特にチッソ過多にならないように注意しましょう。

◉せん定
モクセイは放任していても、丸い樹形に整いますが、大きくなるので狭い場所では、整姿が必要です。

大きくなり過ぎた木を小さくする場合は、秋の花後に花を咲かせた小枝を、1~2節残してその上の太い枝を切り、全体を詰めます。

仕立て物の場合は円筒形や球形に刈り込みます。

花芽分化期は8月で春に伸びた枝に花芽が付きます

新梢が充実していないと、花が付かないので春のせん定は、3月下旬頃までに樹形を乱す飛び枝を刈り込みます。

6月~7月に入ってから、せん定すると新梢が充実せず、花芽が付かないので注意しましょう。

◆殖やし方
今年伸びた枝を使い、葉を3~4節残してさし穂にします。

6月下旬から7月に小粒の赤玉土か鹿沼土にさし、乾燥に気をつけて管理します。

◉植え付け、移植
植え付けは4月中旬から6月中旬が適期で、植え穴に堆肥をよくすき込み、高めに植え支柱で苗木を固定します。

移植は9月から10月が適期です。






2020/09/28

アメリカデイゴ No,289

 アメリカデイゴ マメ科

「亜米利加悌梧」落葉中高木

原産地は、南アメリカでアルゼンチンとウルグアイ両国の、国花として知られています。

夏に丸みのある蝶形の★鮮紅色(せんこうしょく)の花を咲かせます。

★鮮紅色は猩々緋色=(しょうじょうひいろ)と言われ、やや黒みを帯びた鮮やかな色です。

室町時代後期(西暦1336年~1573年)以降に流行した、ポルトガル、スペインとの南蛮貿易の舶来品で知られる色で、特に戦国時代に武士は貿易で入手した猩々緋色の羅紗、(らしゃ、セルビアの首都ラサ産でこの名称)の生地で、陣羽織などを仕立て珍重された色である。

また、猩々緋色は★臙脂色(えんじいろ)と区別するために付けられた色名で、赤みの強い赤紫色である。

◆えんじ色=黒みを帯びた、深く艶やかな、濃い紅色のこと。

アメリカデイゴの花期は長く、6月頃から咲き始め、断続的に9月中旬頃まで咲き続けます。

葉柄や葉裏にトゲがあるのが特徴です。

花後はマメ科特有の偏平楕円形の種子が入った、15㎝程の長さのサヤを付ける。

日本には、江戸時代末期(1853年~1869年)に和歌山県の白浜周辺に伝えられたのが、最初と言われています。

南国の風情がある大型の花は、比較的に耐寒性もある事から、日本の四季でもよく育ち特に、暖地の庭の鑑賞木として親しまれてきました。

遥か遠い海を渡ってきた赤い花で、マメの様なサヤが成ることから、海紅豆(かいこうず)の別名があります。

鹿児島県では特に人気の高い樹種で、県の木として指定されています。

沖縄県の県花としても有名なデイゴは、同じデイゴ属ですが、台湾、沖縄、インドを原産とする近縁種で蝶形の花が、アメリカデイゴと比べると細く、若干異なった印象を受けます。


「放浪記」のベストセラー作家で知られる、林芙美子さんがアジサイの花と共に、愛した花としても知られる。

メキシコでは、生け垣に用いるほか、花はサラダや煮物などの食用にも用いられます。

潮害、公害にも強い事から、沿岸の防潮樹や街路樹などに利用されています。


        (アメリカデイゴ)

◆園芸品種
小葉の丸いマルバデイゴ

アメリカデイゴと近縁種のエリツリナ、ヘルバケアの交雑種で、花の色が濃く小葉が菱形の、サンゴシトウ(ヒシバデイゴ)などが多く栽培されています。

◉生育管理、環境
暖地性ですが、耐寒性は意外に強く、降雪が年2~3回程度の地方であれば、露地栽培が可能です。

栽培可能地としては、関東地方南部以西が目安です。

日当たり、水はけのよいやや乾いた場所が適しています。

土質は特に選びませんが、砂質土を好みます。

◉植え付け、植え替え、移植
生長が早く移植も容易ですが、植え付け、植え替えは十分暖かくなった4月中旬に行うようにします。

浅根性なので高植えにすることが重要です。

大きくなりやすいので、出来るだけ広い場所に植えましょう。

★肥料
生長が早いので十分に肥料を与えます。

チッソ分は控え、3月と9月頃の2回に、油粕、骨粉などの有機肥料を、株の大きさに応じて根元にすき込みます。
(目安として2~3握り)

※大変丈夫な樹種で、病害虫の心配はほとんどないでしょう。

◉せん定
東京以北の関東周辺や内陸部では、本年枝は冬の寒さで枯れてしまいます。

11月中旬~下旬に付け根で切り取り、幹や太枝をワラやコモで巻いて防寒します。

花は今年伸びた枝の先端に付きます。

花は終わったものから、花の少し下で切り戻すと、晩夏にもう一度花を咲かせます。

また、庭が狭い場合は、春に2㍍程の高さで樹芯を止め、将来枝にする部分を付け根から30㎝前後で切り戻し、不要な枝は付け根から切り取って整姿します。

◆殖やし方
★とり木は新梢の組織が固まる6月に行います。

親指程の太さの枝を選び、3㎝幅くらいに環状剥皮します。

水ゴケで包み、ビニール袋で乾燥を防いで、管理すると秋までに発根します。

▲挿し木は冬または春にせん定した枝を使います。

40~50㎝に切った枝を、通常の庭土に半分程植えると夏には発根します。

◉根伏せは3月から4月に行います。
根元付近の根を掘り、3~4㎝の太さの部分の根を30~40㎝の長さに切り取り、幹側に近い方を上向きにして斜めにした状態で、土中に植えます。

夏には発芽、発根するので、凍結に注意してそのまま越冬させ、暖かくなった3月に掘り上げて定植します。

およそ3~4年で開花します。






2020/09/27

コムラサキ 、ムラサキシキブ No,288

 コムラサキ クマツヅラ科 落葉低木

原産地=日本、朝鮮半島、中国 別名ムラサキシキブ

地際から細い枝を出し、6月から7月に淡紫色の筒型の小花をたくさん咲かせます。

9月になると直径3㍉程の果実が紫色に熟し、株全体を覆いつくします。

花は根元に近い部分から先端に向かって、順次開花し同じように根元から実をつけていきます。




コムラサキ(コムラサキシキブ)は、樹高が小ぶりですが、実つきがよく鑑賞木として最も多く用いられている。

園芸店で「ムラサキシキブ」として売られているものの、ほとんどがコムラサキです。

実際のムラサキシキブは、各地の山野に自生し、樹高3㍍と大きく、花、実ともコムラサキとそっくりですが、実つきがまばらで鑑賞木としてはやや見劣りするようです。

名前の由来としては、古代高貴な色とされた紫色の実の清楚な美しさを、理想的な平安美女の代表格である、紫式部になぞらえたと言われていますが、紫の実が折り重なってびっしりつくことから「紫重実=むらさきしきみ」と呼ばれていたものが、転訛したと言う説もあります。

果実は、★才媛と呼ばれ結婚記念樹として植えられることも多いようです。

★才媛=さいえん(高い教養や才能が優れた女性、才女のこと)

因みに男性は?と言う事だが、古来からの学芸と武芸、文武両道の表し方が、当てはまると考えられるが、女性用、男性用に分かれた言葉を使う事に、違和感を感じる人もいるような現代社会では、文美両道と言う四字熟語が、メディア等でも使われていることは、時代の流れ、空気を表しているように思えます。

◆品種として

果実が白いシロシキブ(白式部)

果実が小さく実つきがよいコムラサキシキブ

葉が小さいコバノムラサキシキブ

葉に軟毛のあるヤブムラサキシキブなど品種も多い


        (シロシキブ)

◉生育環境

樹勢が強く日なたでも、半日陰でもよく育ちます。

北海道南部から九州まで、幅広い地域で栽培できますが、腐植質に富んだやや湿潤地が適しています。

夏場の乾燥や冬の乾いた風を嫌います。

◉植え付け

若木、老木を問わずよく根付くので移植も容易です。

移植時期は3月下旬と11月から12月

植え付け時期は、2月から3月の落葉期が理想ですが、梅雨時や9月でも可能です。

日陰にも強いので、他の樹種と一緒に混植して、下木として利用することもできます。

しかし、果実の鑑賞を楽しむためには、単独で植えた方がよいでしょう。

◆肥料

通常、肥料は植え付け時の元肥で十分ですが、2月に寒肥として鶏ふんなどを与えてもよいでしょう。

また、実つきが悪い場合は、リン酸系の肥料を追肥として8月頃に与えます。

★病害虫

まれに小さな甲虫が発生することがあります。

見つけ次第、スミチオン乳剤などを散布して駆除します。

熟した果実は小鳥が好んで食べるので、実熟期にネットを掛けたり、鉢物は室内に取り込むなどの工夫が必要になります。

◉せん定は7月、11月~3月

放任しても樹形はよく整いますが、茂りすぎる傾向があるので、状態により枝抜きして整理します。

葉が動き出す前に、なるべく不要枝だけを付け根から切り取り、自然樹形を保つようにし、古枝は切り戻して更新します。

初夏(7月)には込み枝を間引き、地際から発生したひこばえや、徒長枝を早めに切り取ります。

花芽は前年枝のせ先端につくので、秋以降は先端を強く切り詰めないように注意します。

強過ぎるせん定も枝が徒長気味になり、実つきが悪くなります。

◆殖やし方


実生は果実が完熟する10月~11月に採種し、果肉をよく洗って種子を取り出し、そのまま採り蒔きする。

初根した苗は2年目の春に鉢上げして管理する。

種蒔きから2~3年で開花、結実します。

挿し木は3月の春ざしと6月の梅雨ざしがあります。

充実した前年枝を10~15㎝に切ってさし穂とし、赤玉土小粒や鹿沼土のさし床に挿します。

発根後2~3ヶ月で鉢上げして植え付け、管理します。







2020/09/26

ハナショウブ (アイリス) No,287

 ハナショウブ アヤメ科 宿根草(常緑)

別名=アイリス 「花菖蒲」

アヤメの仲間は非常に種類が多く、世界各地で200種以上の自生種が確認されており、欧米的では、「アイリス(アヤメ科の学名)」と呼ばれている。

原産地は日本、朝鮮半島、東シベリア、中国東北部一帯で、ハナショウブと呼ばれているのは、日本に自生する「ノハナショウブ」の改良品種です。




そのため欧米では「ジャパニーズ·アイリス」ので名で親しまれています。

5月下旬から7月上旬にかけて紫、白、絞りなど、様々な色合いの直径10~20㎝に達する大輪の花を咲かせます。

梅雨期の代表的な草花として、万葉時代(歌が詠まれたのは西暦629年~759年)から親しまれてきました。

花、葉ともに同属の「アヤメ」や「カキツバタ」とよく似ていますが生育環境がそれぞれ違います。

※アヤメは乾燥にも強く陸生植物。

※カキツバタは水の中で育つ水性植物。

※ハナショウブは水辺の湿地帯に育つ陸生植物である点が異なります。

しかし、平安時代から鎌倉時代頃までは、ハナショウブをアヤメと呼んでいたために、かなり混同されているようです。

現在も各地でよく開かれる「あやめ祭り」のあやめが実際には、ハナショウブであることが多いのもその名残りと言えるでしょう。

あやめ園などでハナショウブが、水中に咲いている風景をよく見かけますが、これは開花中だけの演出です。

ハナショウブには葉の中央に隆起した、葉脈が1本通っていてこれも、アヤメやカキツバタと見分ける大きなポイントになります。


(菖蒲湯に利用されるサトイモ科のショウブ)


単にショウブと言った場合は、ハナショウブを指す事が多いようですが、ショウブは本来端午の節句の「菖蒲湯」にその葉を使う「サトイモ科」の植物の事で、ハナショウブは葉の形がショウブによく似ている事から、名付けられた呼び名です。

園芸種が多いアヤメ属の中でも、ハナショウブの品種は最も多く、江戸時代から盛んに品種改良が行われ、現在では約2000種と言われています。

★品種系別
※爽やかで華麗な江戸系

※気品ある伊勢系

※豪華絢爛、壮麗な大輪の花を咲かせる肥後系

※アメリカで改良されたアメリカ系に大別されます。

近縁種として、明治初期に渡来した、花の黄色いヨーロッパ原産の「キショウブ」があります。

葉の中央の隆起した葉脈など、ハナショウブとの共通点も多く、交配種も多数作られています。


         (ハナショウブ)


◉生育管理、環境
日当たり、水はけのよい湿潤地を好みます。

日陰では花が咲きません。

花壇や鉢植えで楽しむことが多いようですが、休眠期の冬以外は水やりをこまめに行い、乾燥を防げば庭植えも可能です。

◉植え付け新芽を数個残して、葉を半分に切り詰め、浅く植えてたっぷり水を与えます。

土は苦土石灰で中和しておきます。
元肥に暖効性肥料を与え、根茎の上部が出る程浅く植えます。

花の終わった直後の6月下旬から7月上旬が適期です。

葉が生長した状態を想定し、列植、群植にする場合は、株と株の間隔を30㎝以上開けるようにします。

茎丈が高くなるので鉢植えの場合は、最低でも6号鉢以上の大きさが必要です。

夏期は充分な水やりが必要なので、底面給水鉢を用いると便利です。

耐寒性は強い植物ですが、土中水分が凍ると根を傷めやすいので、冬期は鉢を花壇に植えるか、寒冷紗で覆うなどの対策が必要になります。

◆肥料
寒肥として完熟堆肥を与え、春と秋に油粕などを少量与えます。

肥料を与え過ぎると株が腐りやすくなるので、控えめに与えましょう。

チッソ分の多い肥料は、軟腐病になりやすいので避けます。

◉病害虫
まれにズイムシ(アヤメキバガ)が発生し、花芽を食害することがあります。

見つけ次第捕殺するか、大量発生した場合は、オルトラン水和剤などを散布します。

★軟腐病=なんぷびょう
病原体のバクテリアが導管部で繁殖し、養水分が地上部に行き渡らなくなり、青枯れ状態になります。

地際部から根にかけて、やわらかく溶けるように腐敗し、悪臭を放つようになります。

高温多湿を好むので、5月から9月に発生します。

チッソ肥料のやり過ぎも多発の原因になります。

バクテリアの病気は薬剤による治療は困難です。

病気にかかった株は見つけ次第、引き抜いて処分しましょう。

バクテリアは傷口から侵入するので、根を傷つけないように注意しましょう。

5月頃から月に1~2回ストレプトマイシンや、銅水和剤(ボルドーなど)を散布すると、多少の予防になります。

この病気はキク、ユリ、ダリア、チューリップ、タマネギ等にも発生します。

◉せん定
一番花、二番花と次々に花が咲くので、終わった花びらは速やかに摘み取ります。

一般的に花期は、5月中旬頃から7月までですが、品種により異なります。

つぼみの先端を突くと開花しないので、作業は慎重に行いましょう。

花が終わったら茎ごと切り取り、3~4年に1回は6月頃に植え替えます。

この時に株分けで殖やせます。

★殖やし方
植え付けて3~4年が最盛期でその後は衰えます。

鉢植えは1~2年、庭植えは3年に1度を目安に株分けします。


古株を掘り起こし、葉を3分の1程度切り詰め、子株を傷めないように切り分け、植え付けます。