緑のお医者の徒然植物記

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緑のお医者の徒然植物記

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2022/09/14

植物の細胞が持つ能力 No,609

 新たに芽生える植物細胞の能力

樹木は材木として利用されたり、間引き(間伐)のために地上部を幹の根元(基部)で伐採されることがあります。

しかし多くの場合、伐採されたとしても樹木の切り株はそのまま生涯を終えることはありません。

地上部の幹を切られても土の中で根が生きているので、水や養分が運ばれ、残された切り株から芽が再び出てきます。


再び切り株の幹から出てくる芽生えは「ひこばえまたはやご」と呼びます。

「ひこ」とは孫のことでひこばえは「孫が生えてきた」という意味になります。

このひこばえには、そのまま樹木として成長できる能力があります。

しかし、なぜ芽のない切り株からひこばえがでてくるのか?

これには、幹を作っている細胞が持っている能力によるものです。

植物の細胞はそれぞれ、部位にふさわしい形や働きをしていますが、更にそれぞれの個体が1つの個体を作る能力を持っているのです。

その能力を『分化全能性』という。

植物の細胞が分化全能性を持つことは、1958年にアメリカの植物学者F.C.スチュワード等によって示されました。

スチュワードは、人参の食用部である根を構成する1個の細胞を取り出して、人工的に用意した適切な条件のもとで育てました。


すると、細胞が増殖して細胞の塊(かたまり)になりました。

これは、根や茎の一部になっていた細胞が分化していない状態に戻ったもので「カルス」と呼ばれます。


  「樹木のカルス形成、切り口を塞ぎ始める」


更にこのカルスを適当な条件でそだてると、カルスから根、茎、葉などが作られてきて、完全なニンジンの植物体が出来上がったのです。

こうして、一個の細胞からでも植物の体は再び作り上げられることが分かりました。

これが細胞の持つ分化全能性と言われる能力です。


つまりひこばえは、切り株の断面にある細胞が分化全能性によって芽を出したものなのである。

このひこばえは、切り株の中央部分からはほとんど生まれず、切り株の周囲から多く出ます。


それは切り株の周囲には若い元気な細胞があり、切り株の中央部分は歳を重ねた古い細胞でできているからです。

    「切り口の周りから出る新しい芽」


植物の細胞の分化全能性は、茎や枝を切っても水の入った容器に挿しておくだけで、発生を見ることができます。

日が経つと、茎や枝の切り口から根が生え出てくる植物は多くありません。

本来なら根を出すはずのない茎の切り口から、新しい根が、生まれてくるのです。

この力を利用したのか「挿し木」です。

分化全能性という能力が挿し木を可能にしているのです。


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植物はなぜ立っていられるの?
No,604












2022/09/12

腐植物質の機能 N0,608

 土壌の腐植物質

腐植物質とは生物の死後、生物体有機物かを微生物的、化学的作用を受けて崩壊して生じた、非生体有機物の総称とされる。


腐植物質は、植物残渣や微生物遺体が土壌中で微生物による分解を受け、その解産物から化学的、生物学的に合成されます。

合目的性(ごうもくてきせい)

合目的性とは、物事のあり方が一定の目的にかなった仕方で存在していることである。


腐植物質は多くの生体高分子(生物の細胞が作り出す天然の巨大な分子)と異なり、一定の目的にかなって合成された物質ではないことが大きな特徴であり、微生物の利用残渣と言っても過言ではない。

❉残渣(ざんさ)とは、ろ過したあとの残りかすのこと

一定の目的を持つことなく生成した物質の例として、石炭がある。

石炭は植物遺体を起源とし、地下深くで「埋没続成作用」を受けて生成するため、官能基(原子(団)がほとんど含まれていない。

❉埋没続成作用とは、堆積物が固まって堆積岩なる作用のこと


しかし腐植物質は同じ植物遺体を材料とするが、地表の酸化的な条件で生成するための多量の酸性原子を持っている。

陸上の自然生態系では、常に新たな植物遺体が土壌に加えられます。

土壌表面に堆積した植物遺体に含まれる糖類、ヘミセルロース、セルロース、タンパク質などは、微生物によって分解され、大部分は水、二酸化炭素、アンモニアになる。

分解過程で、植物成分のごく一部が低分子有機物となり、長時間を経て腐植物質が合成されます。

生成された腐植物質は、腐植を含んだ無機質成分と結合して、微生物による分解に対して抵抗性を持つようになる。

新しい腐植が土壌に加わることで、腐植物質の更新が行われる。

しかし、無機成分と結合した腐食と言っても、全く微生物に分解されないわけではありません。

新しく生成した腐植物質は、すでに土壌中に存在する腐植物質に比べて、再び微生物に分解されやすい部分が多い。







2022/09/11

土壌のアルミニウム毒性 No,607

 アルミニウムの毒性

アルミニウム毒性は、植物細胞の複数の過程を阻害することが知られています。

阻害作用は様々であるが、どの作用が生育阻害の引き金になるのかは明らかになっていない。


アルミニウムに対する感受性は植物種や品種によって大きく異なるが、一部の植物は酸性土壌を克服するため、様々なアルミニウム耐性機構を発達させている。

その耐性戦略は2種類に大別される。

①1つは、根から根圏へ有機酸を分泌し、根圏でアルミニウムをキレートして無毒化する戦略である。

❉キレートとは、クエン酸の作用のこと
❉根圏(こんけん)とは、植物体の根とその影響を受ける土壌中微生物の活動などによって作られる、極めて根に近い範囲を指す。
植物体を維持するための土壌空間である。


分泌する有機酸の種類は、植物種ごとに異なる。

植物のモデル生物として有名なシロイヌナズナ、アブラナ科の一年草(ペンペン草の仲間)はリンゴ酸とクエン酸を分泌する。

イネ科の作物の中では、小麦はリンゴ酸をそしてイネ、大麦、トウモロコシはクエン酸を分泌する。

ライ麦はリンゴ酸とクエン酸の両方を分泌する。

また、蕎麦など一部の植物はアルミニウムに応答して、硝酸を分泌する。

❉硝酸(しょうさん)は無色透明の腐食性の強い有害な液体。

❄リンゴ酸はオキシコハク酸ともいわれ、和名はリンゴから見つかったことに由来する。


ヒドロキシ酸に分類される有機化合物の一種、アルファヒドロキシ酸(AHA)はフルーツ酸などと表記されることもある。

ヒドロキシ酸は、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの総称である。


クエン酸は柑橘類、梅干しなどに含まれている酸味成分の有機化合物。


②もう一つの戦略は、植物体内での耐性機構である。
細胞内に侵入したアルミニウムを液胞に隔離し、有機酸で「キレート」するなどして無害化する。

アジサイなどの一部の耐性植物は、積極的にアルミニウムを吸収し、地上部へと「転流」して蓄積する「アルミニウム集積植物」であることが知られています。

❉転流とは養分の移動(長、短距離輸送)のこと

篩部(しぶ)における転流には明確な方向性があり、転流の出発点を「ソース」到達点を「シンク」と呼ぶが、成熟した葉で光合成をして生育途中の葉に光合成産物を送っている場合では「成熟葉がソース」「未熟葉がシンク」と例えることができる。

◉篩部(しぶ)とは、植物の維管束を形成する、篩管を中心とする部分。

維管束(いかんそく)はシダ植物と種子植物にあって、篩部と木部からなり、道管、仮道管、篩管などを含む組織の集まり。


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熱帯雨林の土壌と植物生育環境
No,606









2022/09/10

熱帯雨林の土壌と植物生育環境 No,606

 熱帯雨林の土壌と植物

ブラジルの土壌は、『ラテライト』と呼ばれる粘土質の鉄やアルミニウムが多く残留している赤色の土壌で、日本語では紅土(こうど)という。

『ラテライト』とは、地表の風化物として生成された「膠結(こうけつ)物質」である。

軟らかい未団結の堆積物で、その沈殿物を膠結物質という。
また、セメントを膠結物ともいう。

ラトソルやラトゾルとも呼ぶ。
脱水すると吸湿しにくくなるなどの特徴を持っており、堆積物は団結して硬くなり石化する。


植物にとって肥沃な土壌とは言えません。

アマゾン熱帯雨林の肥沃な土壌での、熱帯の樹木は生長に従って「板根」という特殊な板状の根や、ガジュマルのような「支柱根」と言われる根を伸ばし、地上にその姿を現します。


◉板根(ばんこん)
熱帯雨林では多雨による土壌の流出により、土壌がほとんど存在しません。

そのため大木は、幹を安定されるために根を横方向に生長させ、板根を形成しています。



✿サキシマスオウノキ(先島蘇芳の木)


先島地方で、材からスオウのような赤色の染料を採ったのでこの名がある。

板根の高さは2㍍以上もあり、根元まで海水が押し寄せてくるような海辺に生え、樹高は10㍍程になる。

果実は堅い木質で軽く、海水に浮かんで分布を広げる。



❄支柱根(しちゅうこん)

大木になると枝から気根を垂らし、地面に着いた気根は支柱根となって木を支える。



◉ガジュマル(榕樹=ようじゅ)

枝から多数の気根を垂らすので独特の景観になる。

海岸の隆起珊瑚の上などに生えるが、海辺に自生する多くは、地面を這うように伸び、一見すると草のようである。


熱帯雨林では地力を失い、そこに生える牧草には栄養素がなく、このような牧草では牛が肥えることもできません。

同様に農地としても作物が育ちにくい。

地力を失った所では、施肥をしながら地力維持を続ける必要がありますが、経費もかかるので継続的な管理も難しい。

地力のある熱帯雨林の開拓、開墾を続けて広げて行くことは、放置される土地も増え、荒廃となり、やがては森林破壊へと繋がっていきます。


酸性土壌は、熱帯や亜熱帯地域を中心に広く分布し、世界の耕地面積の3〜4割を占める典型的な問題のある土壌である。

酸性土壌での主な作物阻害因子は、アルミニウムイオン毒性です。

アルミニウム(Al)は地殻中に酸素、ケイ素に次いで3番目に多い元素であり、土壌中に広大に存在しています。

アルミニウムは、中性土壌では土壌鉱物に安定に保持されるため無害ですが、酸性土壌PH5.5以下ではアルミニウムイオンとして溶け出し、微量でも植物の根の伸長を速やかに阻害します。

その結果、植物の養分や水分の吸収に影響し、乾燥ストレスなどにも弱くなり、作物生産性の低下を招くことになります。

酸性土壌は世界各地に広く分布していることから、酸性土壌における生産性の向上は今後、食糧不足問題を解決するための鍵とされています。


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2022/09/09

カリウムの王様と言われる果物 No,605

 カリウムの王様と言われるバナナ

日本で最も食べられているのは、フィリピン産の「ジャイアント·キャベンディッシュ」という品種のバナナです。

東南アジアを原産とするバショウ科の植物で、単子葉植物ショウガ目に属します。

ショウガ科に似て熱帯を中心に分布しますが、比較的耐寒性は高い品種もある。

多くは高温多湿の環境に適応します。

果実が食用となるため、五千年以上前から、中南米、フィリピンなどの熱帯、亜熱帯地方で栽培されてきました。




「カリウムの王様」という呼び名はジャガイモに使われますが、この植物の果実にも使われます。

ポルトガル人が15世紀にバナナを発見し、大西洋を経てアメリカ大陸へ伝わり、世界で広く栽培されるようになったとされる。

日本で最初にこの果物を食べたのは、1969年、織田信長と言われていますが、それが正しいかは別として、日本でも古くから知られている果物です。

日本で正式に輸入が始まったのは1903年(明治36年)
で、その後、1963年(昭和38年)バナナの輸入が自由化され、台湾に加えエクアドルやフィリピンなどのバナナも流通するようになり、現在輸入バナナの約9割はフィリピン産である。

バナナはカリウムを豊富に含んでいる果物です。

カリウムには、ナトリウム(塩分)を排泄する役割があり、高血圧やむくみの解消、運動中の筋肉が痙攣(けいれん)するのを防ぐなど、様々な効果が期待できます。

一方で、カリウムを摂りすぎると、手指や唇のしびれ、全身のだるさ、不整脈などの症状が現れ、心臓が止まってしまう原因にもなります。

よって、カリウムを多く含む果物、野菜、芋類、干し物等やタンパク質の摂りすぎには特に注意が必要となる。

また、腎不全などで腎機能が低下するとカリウムがうまく排泄されなくなり、高カリウム血症になる。

食物繊維が多く含まれ、低カロリーであるため、ダイエットで食べることもありますが、摂取量には注意しましょう。







2022/09/08

植物はなぜ立っていられるの? No.604

 植物の茎や幹には立つ仕組みがある

植物には人間のような骨がありません。

どうして植物は骨がないのに立つことができるのでしょう。

一般に植物は、根が地上部を支えていることと、茎や幹が立つこととは別なものです。


        「コルクガシ」


植物の細胞の仕組み

植物は体のすべての部分が細胞というものからできています。

植物の細胞は1665年にイギリスの物理学者「ロバート・フック」により見つけられました。

フックは、ワインの瓶の栓などに使われるコルク素材に「なぜ他の木材にない軽くて柔らかく弾力があるのか」と興味を持ちました。

コルクは南ヨーロッパ原産の『コルクの木』と呼ばれる「コルクガシ」の樹皮から作られています。

フックはコルクを薄く切り、自作の顕微鏡でコルクを観察し、その結果、コルクはハチの巣のように中が空洞になっているたくさんの小さな部屋からできていることを発見しました。

そして、この小さな部屋のようなものにセル(cell)と名付けました。

これが日本語で言う「細胞」のことです。

しかし、フックが細胞を見つけた当時は、この小さな部屋のようなものが、植物の体を作り上げる基本的なものになっているとは認識されなかったのです。



❉ロバート・フック(1635〜1703)
フックは非常に多彩な研究者であり、生物学や物理学など多方面に業績を残している。

アイザック・ニュートンに消された男
(ニュートンに消された男、角川ソフィア文庫)

17世紀の時代に活躍したフックですが、しかし、彼の肖像画は1枚も遺されていない。

それは死後にニュートンが彼を学界から消して行ったかである。


時が過ぎ、約170年後の1838年になってようやく、ドイツの植物学者「シュライデン」が“植物の体は細胞からできている”と唱えたのです。



❉マティアス·ヤーコブ·シュライデン
(1804〜1881)現ドイツハンブルク出身元弁護士
シュワンと協力して、生物の細胞説を提唱した先駆者で、ドイツの植物学者。


更にその翌年、シュライデンの友人であるドイツの動物学者「シュワン」が“動物の体も細胞からできている”と提唱しました。



❉テオドール・シュワン(1810〜1882)
現ドイツ、ノイス出身の生理学者、動物学者

解剖学的な研究業績も残している。
神経繊維を研究して軸索=じくさく(神経細胞から電線状に伸びる長い突起)を包む鞘(さや)を発見した。

今日「シュワン細胞」と呼ばれている。



この二人の研究者の考えが基になって、細胞が植物や動物の体を作る基本単位であるとする、細胞説が確立されたのです。

その後、細胞説には「すべての細胞は細胞から生じる」という考えが加えられました。


しかし、植物細胞と人間などの動物の体を構成する細胞とは大きな違いがあります。

動物の細胞の外側は細胞膜という薄く柔らかい膜で包まれています。

一方、植物の細胞も細胞膜に包まれていますが、更にその外側には「細胞壁」という厚くて丈夫な壁に囲まれいます。

動物の細胞には細胞壁はありません。

動物にはない厚く強固な細胞壁を持つ植物は、細胞内にある核や葉緑体などを保護する働きをしますが、植物の体を支える働きもしているのです。

細胞壁の主な物質は「セルロース」ですが、さらに「リグニン」という成分を含むことにより、細胞壁をより硬くしている。


茎や幹はこのリグニンを多く含んだ、硬い細胞壁を持つ細胞を積み重ねて立っているのです。

よって、骨がなくても立つことができるのです。

セルロース

植物の細胞壁及び繊維の主成分で、植物はすべてセルロースを主構成成分として含んでいる。

地球上で最も多く存在する炭水化物です。

このセルロースが病菌(腐朽菌)などに侵入されると、樹は枯死してしまう。

白色腐朽型では、セルロース、ヘミセルロースそして、リグニンのすべての木材成分が分解され、灰白色から白色となる。


リグニン

セルロースなどとともに、高等植物の木化に関与する高分子のフェノール性化合物であり、「木質素」とも呼ばれる。

木材中の20〜30%を占め、セルロースと結合した状態で存在する。

「木材」を意味するラテン語(lignum)から命名された。


コルクガシ

ブナ科コナラ属の常緑高木
スペインを中心とする南ヨーロッパ原産

幹の肥大生長とともに、樹皮の中にコルク層が10cm以上にも発達する。

関東地方南部以西で一部植栽されている。



         「コルクガシ」


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