緑のお医者の徒然植物記

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2022/09/11

土壌のアルミニウム毒性 No,607

 アルミニウムの毒性

アルミニウム毒性は、植物細胞の複数の過程を阻害することが知られています。

阻害作用は様々であるが、どの作用が生育阻害の引き金になるのかは明らかになっていない。


アルミニウムに対する感受性は植物種や品種によって大きく異なるが、一部の植物は酸性土壌を克服するため、様々なアルミニウム耐性機構を発達させている。

その耐性戦略は2種類に大別される。

①1つは、根から根圏へ有機酸を分泌し、根圏でアルミニウムをキレートして無毒化する戦略である。

❉キレートとは、クエン酸の作用のこと
❉根圏(こんけん)とは、植物体の根とその影響を受ける土壌中微生物の活動などによって作られる、極めて根に近い範囲を指す。
植物体を維持するための土壌空間である。


分泌する有機酸の種類は、植物種ごとに異なる。

植物のモデル生物として有名なシロイヌナズナ、アブラナ科の一年草(ペンペン草の仲間)はリンゴ酸とクエン酸を分泌する。

イネ科の作物の中では、小麦はリンゴ酸をそしてイネ、大麦、トウモロコシはクエン酸を分泌する。

ライ麦はリンゴ酸とクエン酸の両方を分泌する。

また、蕎麦など一部の植物はアルミニウムに応答して、硝酸を分泌する。

❉硝酸(しょうさん)は無色透明の腐食性の強い有害な液体。

❄リンゴ酸はオキシコハク酸ともいわれ、和名はリンゴから見つかったことに由来する。


ヒドロキシ酸に分類される有機化合物の一種、アルファヒドロキシ酸(AHA)はフルーツ酸などと表記されることもある。

ヒドロキシ酸は、グリコール酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの総称である。


クエン酸は柑橘類、梅干しなどに含まれている酸味成分の有機化合物。


②もう一つの戦略は、植物体内での耐性機構である。
細胞内に侵入したアルミニウムを液胞に隔離し、有機酸で「キレート」するなどして無害化する。

アジサイなどの一部の耐性植物は、積極的にアルミニウムを吸収し、地上部へと「転流」して蓄積する「アルミニウム集積植物」であることが知られています。

❉転流とは養分の移動(長、短距離輸送)のこと

篩部(しぶ)における転流には明確な方向性があり、転流の出発点を「ソース」到達点を「シンク」と呼ぶが、成熟した葉で光合成をして生育途中の葉に光合成産物を送っている場合では「成熟葉がソース」「未熟葉がシンク」と例えることができる。

◉篩部(しぶ)とは、植物の維管束を形成する、篩管を中心とする部分。

維管束(いかんそく)はシダ植物と種子植物にあって、篩部と木部からなり、道管、仮道管、篩管などを含む組織の集まり。


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熱帯雨林の土壌と植物生育環境
No,606









2022/09/10

熱帯雨林の土壌と植物生育環境 No,606

 熱帯雨林の土壌と植物

ブラジルの土壌は、『ラテライト』と呼ばれる粘土質の鉄やアルミニウムが多く残留している赤色の土壌で、日本語では紅土(こうど)という。

『ラテライト』とは、地表の風化物として生成された「膠結(こうけつ)物質」である。

軟らかい未団結の堆積物で、その沈殿物を膠結物質という。
また、セメントを膠結物ともいう。

ラトソルやラトゾルとも呼ぶ。
脱水すると吸湿しにくくなるなどの特徴を持っており、堆積物は団結して硬くなり石化する。


植物にとって肥沃な土壌とは言えません。

アマゾン熱帯雨林の肥沃な土壌での、熱帯の樹木は生長に従って「板根」という特殊な板状の根や、ガジュマルのような「支柱根」と言われる根を伸ばし、地上にその姿を現します。


◉板根(ばんこん)
熱帯雨林では多雨による土壌の流出により、土壌がほとんど存在しません。

そのため大木は、幹を安定されるために根を横方向に生長させ、板根を形成しています。



✿サキシマスオウノキ(先島蘇芳の木)


先島地方で、材からスオウのような赤色の染料を採ったのでこの名がある。

板根の高さは2㍍以上もあり、根元まで海水が押し寄せてくるような海辺に生え、樹高は10㍍程になる。

果実は堅い木質で軽く、海水に浮かんで分布を広げる。



❄支柱根(しちゅうこん)

大木になると枝から気根を垂らし、地面に着いた気根は支柱根となって木を支える。



◉ガジュマル(榕樹=ようじゅ)

枝から多数の気根を垂らすので独特の景観になる。

海岸の隆起珊瑚の上などに生えるが、海辺に自生する多くは、地面を這うように伸び、一見すると草のようである。


熱帯雨林では地力を失い、そこに生える牧草には栄養素がなく、このような牧草では牛が肥えることもできません。

同様に農地としても作物が育ちにくい。

地力を失った所では、施肥をしながら地力維持を続ける必要がありますが、経費もかかるので継続的な管理も難しい。

地力のある熱帯雨林の開拓、開墾を続けて広げて行くことは、放置される土地も増え、荒廃となり、やがては森林破壊へと繋がっていきます。


酸性土壌は、熱帯や亜熱帯地域を中心に広く分布し、世界の耕地面積の3〜4割を占める典型的な問題のある土壌である。

酸性土壌での主な作物阻害因子は、アルミニウムイオン毒性です。

アルミニウム(Al)は地殻中に酸素、ケイ素に次いで3番目に多い元素であり、土壌中に広大に存在しています。

アルミニウムは、中性土壌では土壌鉱物に安定に保持されるため無害ですが、酸性土壌PH5.5以下ではアルミニウムイオンとして溶け出し、微量でも植物の根の伸長を速やかに阻害します。

その結果、植物の養分や水分の吸収に影響し、乾燥ストレスなどにも弱くなり、作物生産性の低下を招くことになります。

酸性土壌は世界各地に広く分布していることから、酸性土壌における生産性の向上は今後、食糧不足問題を解決するための鍵とされています。


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2022/09/09

カリウムの王様と言われる果物 No,605

 カリウムの王様と言われるバナナ

日本で最も食べられているのは、フィリピン産の「ジャイアント·キャベンディッシュ」という品種のバナナです。

東南アジアを原産とするバショウ科の植物で、単子葉植物ショウガ目に属します。

ショウガ科に似て熱帯を中心に分布しますが、比較的耐寒性は高い品種もある。

多くは高温多湿の環境に適応します。

果実が食用となるため、五千年以上前から、中南米、フィリピンなどの熱帯、亜熱帯地方で栽培されてきました。




「カリウムの王様」という呼び名はジャガイモに使われますが、この植物の果実にも使われます。

ポルトガル人が15世紀にバナナを発見し、大西洋を経てアメリカ大陸へ伝わり、世界で広く栽培されるようになったとされる。

日本で最初にこの果物を食べたのは、1969年、織田信長と言われていますが、それが正しいかは別として、日本でも古くから知られている果物です。

日本で正式に輸入が始まったのは1903年(明治36年)
で、その後、1963年(昭和38年)バナナの輸入が自由化され、台湾に加えエクアドルやフィリピンなどのバナナも流通するようになり、現在輸入バナナの約9割はフィリピン産である。

バナナはカリウムを豊富に含んでいる果物です。

カリウムには、ナトリウム(塩分)を排泄する役割があり、高血圧やむくみの解消、運動中の筋肉が痙攣(けいれん)するのを防ぐなど、様々な効果が期待できます。

一方で、カリウムを摂りすぎると、手指や唇のしびれ、全身のだるさ、不整脈などの症状が現れ、心臓が止まってしまう原因にもなります。

よって、カリウムを多く含む果物、野菜、芋類、干し物等やタンパク質の摂りすぎには特に注意が必要となる。

また、腎不全などで腎機能が低下するとカリウムがうまく排泄されなくなり、高カリウム血症になる。

食物繊維が多く含まれ、低カロリーであるため、ダイエットで食べることもありますが、摂取量には注意しましょう。







2022/09/08

植物はなぜ立っていられるの? No.604

 植物の茎や幹には立つ仕組みがある

植物には人間のような骨がありません。

どうして植物は骨がないのに立つことができるのでしょう。

一般に植物は、根が地上部を支えていることと、茎や幹が立つこととは別なものです。


        「コルクガシ」


植物の細胞の仕組み

植物は体のすべての部分が細胞というものからできています。

植物の細胞は1665年にイギリスの物理学者「ロバート・フック」により見つけられました。

フックは、ワインの瓶の栓などに使われるコルク素材に「なぜ他の木材にない軽くて柔らかく弾力があるのか」と興味を持ちました。

コルクは南ヨーロッパ原産の『コルクの木』と呼ばれる「コルクガシ」の樹皮から作られています。

フックはコルクを薄く切り、自作の顕微鏡でコルクを観察し、その結果、コルクはハチの巣のように中が空洞になっているたくさんの小さな部屋からできていることを発見しました。

そして、この小さな部屋のようなものにセル(cell)と名付けました。

これが日本語で言う「細胞」のことです。

しかし、フックが細胞を見つけた当時は、この小さな部屋のようなものが、植物の体を作り上げる基本的なものになっているとは認識されなかったのです。



❉ロバート・フック(1635〜1703)
フックは非常に多彩な研究者であり、生物学や物理学など多方面に業績を残している。

アイザック・ニュートンに消された男
(ニュートンに消された男、角川ソフィア文庫)

17世紀の時代に活躍したフックですが、しかし、彼の肖像画は1枚も遺されていない。

それは死後にニュートンが彼を学界から消して行ったかである。


時が過ぎ、約170年後の1838年になってようやく、ドイツの植物学者「シュライデン」が“植物の体は細胞からできている”と唱えたのです。



❉マティアス·ヤーコブ·シュライデン
(1804〜1881)現ドイツハンブルク出身元弁護士
シュワンと協力して、生物の細胞説を提唱した先駆者で、ドイツの植物学者。


更にその翌年、シュライデンの友人であるドイツの動物学者「シュワン」が“動物の体も細胞からできている”と提唱しました。



❉テオドール・シュワン(1810〜1882)
現ドイツ、ノイス出身の生理学者、動物学者

解剖学的な研究業績も残している。
神経繊維を研究して軸索=じくさく(神経細胞から電線状に伸びる長い突起)を包む鞘(さや)を発見した。

今日「シュワン細胞」と呼ばれている。



この二人の研究者の考えが基になって、細胞が植物や動物の体を作る基本単位であるとする、細胞説が確立されたのです。

その後、細胞説には「すべての細胞は細胞から生じる」という考えが加えられました。


しかし、植物細胞と人間などの動物の体を構成する細胞とは大きな違いがあります。

動物の細胞の外側は細胞膜という薄く柔らかい膜で包まれています。

一方、植物の細胞も細胞膜に包まれていますが、更にその外側には「細胞壁」という厚くて丈夫な壁に囲まれいます。

動物の細胞には細胞壁はありません。

動物にはない厚く強固な細胞壁を持つ植物は、細胞内にある核や葉緑体などを保護する働きをしますが、植物の体を支える働きもしているのです。

細胞壁の主な物質は「セルロース」ですが、さらに「リグニン」という成分を含むことにより、細胞壁をより硬くしている。


茎や幹はこのリグニンを多く含んだ、硬い細胞壁を持つ細胞を積み重ねて立っているのです。

よって、骨がなくても立つことができるのです。

セルロース

植物の細胞壁及び繊維の主成分で、植物はすべてセルロースを主構成成分として含んでいる。

地球上で最も多く存在する炭水化物です。

このセルロースが病菌(腐朽菌)などに侵入されると、樹は枯死してしまう。

白色腐朽型では、セルロース、ヘミセルロースそして、リグニンのすべての木材成分が分解され、灰白色から白色となる。


リグニン

セルロースなどとともに、高等植物の木化に関与する高分子のフェノール性化合物であり、「木質素」とも呼ばれる。

木材中の20〜30%を占め、セルロースと結合した状態で存在する。

「木材」を意味するラテン語(lignum)から命名された。


コルクガシ

ブナ科コナラ属の常緑高木
スペインを中心とする南ヨーロッパ原産

幹の肥大生長とともに、樹皮の中にコルク層が10cm以上にも発達する。

関東地方南部以西で一部植栽されている。



         「コルクガシ」


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No,609











2022/09/07

食べる風邪薬 春菊 No,603

 春菊 キク科

原産地=地中海沿岸

欧米では観賞用に栽培されるが、日本や中国では野菜として栽培される。

中国の宋時代(宋は北宋、南宋と区別される)に日本に渡来した。

中国では炒めものにするのが定番とされ、風邪の予防に効果があることから、漢方では「食べる風邪薬」として用いられている。







春菊は、ほうれん草よりも栄養価が高い成分もある「優秀野菜」です。

特に、喉や腸などの粘膜を健康にするベータカロテンかを多く含まれている。

疲労回復やエネルギーを作り出すために必要なビタミンB群、ビタミンC、カルシウム、妊娠中に特に必要な❉葉酸や鉄、カリウムや食物繊維が含まれています。


❉葉酸はビタミンB群の水溶性のビタミンで、プチロイルモノグルタミン酸及びその枝分かれ(派生物)の総称です。


ビタミンB12とともに赤血球を作るので「造血のビタミン」とも言われています。

DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(核酸=リボース、五個の炭素原子を含む単糖)などの核酸やたんぱく質の合成を促進し、細胞の生産や再生を助ける。

1941年に、乳酸菌の増殖因子としてホウレンソウの葉から発見されました。


✿非結球性

小松菜等の丸く結球しない「三大非結球野菜」の1つにあげられます。

レタス、ハクサイ、ホウレンソウ、チンゲンサイなど
葉が広がっているものを非結球性といい、キャベツなどの丸く固まったものを結球性として分類される。


葉っぱに含まれる独特の香りの成分は、ピネンやペリルアルデヒドなどと言われます。

春菊の苦味は茎や葉に多く含まれ、苦味のもとであるポリフェノールが加熱することによって細胞から出てくるので、加熱する時間が長くなると苦味も強くなっていきます。


春菊は種子を播いてから約2ヶ月で収穫できます。

株の上部の葉っぱをつけた茎を切って収穫し、株の下部を残しておくとまた、茎や葉っぱが出てくるので再び収穫できます。

上手く栽培すれば、一株で年に7回程収穫できるとも言われています。







2022/09/06

品種登録された植物の栽培、繁殖の注意点 No,602

 植物を殖やす前に注意すること

園芸の楽しみ方は色々ですが、その中のひとつとし、
植物を殖やすことを楽しむ人も多いことでしょう。

高度な技術を持つ園芸愛好家であるなら、ある品種とある品種を掛け合せて、新しい形や色の花や葉をつける品種を、作り出す楽しみ方もあると思います。

また、殖やした植物をフリーマーケットで売ったり、道の駅で売るといった人もいるようです。

そんな楽しいことが一歩間違えば、知らずしらずに法律違反をしてしまう可能性があります。


◉種苗法

販売されている園芸植物の中には「登録品種」という種苗法に護られている品種があります。


この法律は、園芸業界が発展するよう定められたものです。

新しく作られた品種を保護することで、新品種の育成を活発化させ、それらの新種苗が適正に流通されるようにしているのです。


つまり、発明特許のような扱いです。

自分が作ったオリジナルの植物品種を「勝手に殖やされて世の中に広く流通しないように」育成者に配慮されている法律なのです。


作り手である育成者は、新しい植物の品種を作り出すと、農林水産省に行って、「この花を作ったのは自分なので、許可なく殖やしてはいけない」とするための品種登録を行います。


登録が認められた品種は、育成者が作り出したものであると主張できるので、育成者は登録品種の栽培、繁殖について許可を下す権利を得ます。

よって、育成者の許可を得ないと殖やすことができないので、植物が登録品種なのかどうかを把握しながら、栽培する必要があります。

殖やして人にあげた植物が、「法律違反になる品種」だったということが起きるかもしれません。

ただし、自分でオリジナルの品種を作ろうとする場合には、登録品種とそうでない品種を「かけ合わせる時」には、使用しても問題ないとされています。


✪品種登録の期限

育種者権の存続期間は、登録日から25年又は30年とされています。

ただし、存続期間内であっても定められた期間内に、各年分の登録料が納付されない場合や、品種登録の要件を満たしていなかったことが判明した場合、品種登録後に植物体の特性が保持されていない場合には、品種登録が取り消されます。


◉登録品種を見分ける方法

ラベルや種子袋をよく見ると、「農林水産省種苗発録(品種登録申請番号)第⚪⚪号」や「品種登録出願中、または準備中」などの記載がされています。






記載がなければ登録品種ではないということになります。

また、登録品種であることが分かりやすいマークがあります。

登録品種表示マーク(PVPマーク)と言うものです。

PVPとは、Plant Variety Protectionの略で、植物品種保護という意味です。




このマークはこれまでに、法律によって使用を義務付けされていませんでしたが、令和3年4月1日より、登録品種であることの表示が義務化され、これに伴い、これまで植物品種保護戦略フォーラムで推進してきた、「PVPマーク」が登録品種の義務表示の選択肢として利用できることになりました。

PVPマークは登録品種であることを示すマークになりますが、「登録出願中」の品種には使用できなくなるので注意が必要です。


✪令和4年4月1日から出願料が1,4000円になりました。

❉PVPマークの使用に関する情報は農林水産省のサイトへ

参考ホームページURL

(令和4年4月1日以後のホームページ)

農林水産省品種登録ホームページ

http://www.ninshu2.maff.go.jp