緑のお医者の徒然植物記

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2021/07/13

植物寄生性線虫類の生物学 No,525

 植物寄生性線虫とは

線形動物門に属する線虫(ネマトーダ)のうち、植物に寄生するものを植物寄生性線虫という。

分類学的には植物寄生性線虫Tylencnida目及び一部のDor-ylaimida目に限られる。


基本的な体型は、細長い円筒状で体長は0.1〜1.5㍉程度のものが多い。

体壁((クチクラ)は多層の膜で構成され柔軟性に富む。

✫クチクラ(ラテン語Cuticula)とは、表皮を構成する細胞が、その外側に分泌することで生じる丈夫な膜のことである。

様々な生物において体表を保護する役割を果たしている。

クチクラは保護膜でクチクラがない植物は萎れる。


線虫の運動筋肉は縦走筋のみで、大多数の線虫は波状の前進運動を行う。

線虫は、植物細胞内容物を摂取したり、植物体内に侵入するための器官として口針を持つ。

卵、幼虫、成虫に区分され、線虫の多くは卵内で1回脱皮して第2期に幼虫として孵化(ふか)する。

幼虫期に計4回脱皮して成虫となる。


ネコブセンチュウでは、栄養不足などの悪環境下で、雌が性転換し、雄の比率が高まる。

寄主植物の根からの浸出液は、シストセンチュウの幼虫孵化やピンセンチュアの脱皮を促進する。

植物性寄生性線虫の根部寄生による被害は、潜在的、慢性的で生長遅延や生育不良として症状が現れることが多い。

苗木育生圃場(ほば=栽培畑)では、線虫による直接害に加えて、他の病原微生物との混合感染による害が大きい。(複合病害)

日本国内に広く分布し、大きな作物被害をもたらす線虫は、ネコブセンチュウ、シストセンチュウ、ネグサレセンチュウ及びマツノザイセンチュウである。


ネコブセンチュウ類

根に内部寄生し、巨大細胞とコブ(ゴール)を形成する。

ゴールの着生程度(ゴール指数)で被害度を表す。

サツマイモネコブセンチュウの寄生範囲は700種を超え、サツマイモ、ニンジン、キュウリ、トマト、ナスなどに加害する。

その他、キク、ツツジ、スギ、ヒノキ、マツなどの樹木などに被害が多い。


シストセンチュウ類

ダイズシストセンチュウはダイズ、アズキ、インゲンなどのマメ科植物に寄生する。

中でもダイズの被害が大きく、茎葉は黄変し生育は衰える。

また、線虫寄生により根粒菌の着生数は減少する。

ジャガイモに寄生するジャガイモセンチュウは、国外からの侵入線虫でジャガイモ、トマト、ナスに寄生し、北海道のジャガイモ被害が大きい。


ネグサレセンチュウ類

ネグサレセンチュウは、皮層内で摂食、移動しながら植物組織を破壊する。

被害部は壊死(えし、ネクロシス)を起こして黒褐色になる。

ミナミネグサレセンチュウは多犯性で、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ウリ類、トマト、ナス、ダイズなどで被害を起こす。

クルミネグサレセンチュウによる被害は、イチゴなどで問題となる。


樹木類ではツバキ、サザンカ、ゴム、カエデ、マツ、ニレ、ヒノキ、イヌマキ、キャラボクに被害がある。

キタネグサレセンチュウは350種以上の植物に寄生し、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、トマト、ナス、イチゴ、トウモロコシ、フキ、キクなどで被害が大きい。


マツノザイセンチュウ

北海道と青森を除く日本全土で、クロマツ、アカマツなどの被害が大きく、枯死の原因になる。

線虫は、マツノマダラカミキリムシの成虫によって伝搬されるため、枯れたマツを中心に被害面積が急速に拡大する。


複合被害

線虫と病原微生物との相互関係より、個別的な感染で被害の増大や抑制が、認められる線虫関連被害を複合病という。


細菌との複合病

細菌との混合感染による被害は、ネコブセンチュウが関与した場合が多い。

ナス科の青枯病は、サツマイモネコブセンチュウやキタネコブセンチュウと、ジャワネコブセンチュウと混合感染して被害が激しくなる。


糸状菌との複合病

50種以上の糸状菌、20属以上の線虫で複合病への関与が認められる。

フザリウム菌
ネコブセンチュウ、ネモグリセンチュウ、イシュクセンチュウ、ミカンネセンチュウ、ダイズシストセンチュウなどと混合感染して被害を拡大する。

フザリウム菌は糸状菌(カビ)の一種で、フザリウム菌の殆どは、無害な腐生菌であり、土壌微生物群集の中で多くの種類がいる。

しかし、フザリウム菌の数種に経済に影響する程の、致命的な損害を作物に与えるものがある。

✫バーティシリウム菌は、ネグサレセンチュウとの混合感染による被害が著しい。

✫サツマイモネコブセンチュウは、トマト、オクラ、タバコの根腐れ病

✫エンドウ、スイカ、メロン、キュウリ、トマトの萎ちょう病

✫タバコ、トマトの立枯病との複合病害を引き起こす。


植物寄生性線虫類の防除


化学的防除

殺線虫剤にはくん蒸剤と非くん蒸剤(接解剤)がある。

①くん蒸剤
臭化メチル、クロルピクリン、テロン、メチルイソチオシアネート、DCIPなど

DCIP粒剤は、生育期間中の使用も可能で、チャやワタは株間に土壌混和する。

くん蒸剤は、ガス化した薬剤が気門を通して線虫の呼吸系に入ることにより作用する。

作物と薬剤の種類ごとに定められた薬量を、作付け前に土壌中に注入ないし灌注(かんちゅう)する。
(30kg/10a)

薬害を防ぐために、処理後約10日後に耕起して、十分にガス抜きした後播種や定植を行う。


②非くん蒸剤
オキサミル、ピラクロホス、ホスチアゼートなど、いずれも粒剤で土壌と混和して用いるが、残効時間は短くオキサミルなどの浸透移行性薬剤は、低濃度では幼虫孵化、根や異性への誘引、根内の侵入線虫の発育や繁殖を阻害し、高濃度では致死的に作用する。(20〜40kg/ha)

③輪作
線虫被害を軽減するための基幹的手段で、抵抗性品種や線虫の増殖に不敵な作物、或いは✫休閑を栽培体系に組み込み、線虫密度を経済的被害許容水準以下に抑える。


✫休閑(きゅうかん)とは
土地の力を養うために、耕作を休むこと

サツマイモネコブセンチュウに対してはラッカセイ、イチゴ、サトイモ、サツマイモ(抵抗性品種)などが、キタネコブセンチュウに対しては、イネ科植物、トウモロコシ、スイカ、サツマイモ(抵抗性品種)などが増殖不適作物となる。


④抵抗性品種
感受性品種と同様に線虫感染を受けるが、感染した線虫の発育が著しく劣るものを、抵抗性品種と言う。

抵抗性品種利用の際には、寄主範囲を異にする線虫の存在に注意が必要である。


⑤対抗植物の利用
殺線虫性物質を分泌または含有する植物で、土壌中または植物組織内の線虫の、発育阻害効果や致死効果を持ち、その栽植や投入が、線虫密度を積極的に低下させる植物を対抗植物という。

マリーゴールド、アスパラガス、
ウィーピング(ラブ)グラス、クロタラリア属植物などが対抗植物である。

栽培畑にマリーゴールドを植えると、ネモグリセンチュウやネコブセンチュウの密度が低下する。


             「マリーゴールド、キク科」

マリーゴールドを約3〜4ヶ月間全面栽培したのち、土壌中にすき込む。


               「クロタラリア、マメ科」

キク科の1、2年草又は多年草で、抵抗性植物の一種「ルドベキア」は別名マツカサギクと呼ばれ、花としても大変美しい。


                     「ルドベキア」

ルドベキアは、ひまわりを小さくしたような花を寂しい雰囲気の秋に咲かせる。

とても丈夫で、こぼれ種からもよく殖えるので、地植えなら毎年花を咲かせます。


⑥有機物の施用
土壌環境の改善を主目的に施用される有機物は、鶏ふん、豚糞、牛ふんなどと、各種の堆肥は総合的、遅効的に線虫害を軽減する。

線虫被害軽減効果は、線虫の移動や行動の阻害、土壌中における殺虫性分解産物の生成、天敵微生物及び自活性線虫の増殖、作物の抵抗性高揚や植物の生育促進などによる。

⑦湛水(たんすい)処理
(水を張ってため続けること)

好気的条件で発育、増殖する植物寄生性線虫は、嫌気的環境条件下において、湛水などでは著しく密度が低下する。

太陽熱による熱殺効果も同時に働く、夏季のハウス密閉処理は、暖地の施設園芸で有効な防除手段となる。

⑧線虫感染の回避
健全な種苗の利用
線虫感染植物の移動(移植)の禁止
線虫汚染土壌の持ち込み使用禁止など


⑨生物的防除
線虫の天敵糸状菌として、外部寄生菌、内部寄生菌、シスト寄生菌、卵寄生菌など約150種が知られている。


エビやカニの甲殻の土壌施用は、主として「キチン」からなる卵殻を貫通して感染する卵寄生菌を増加される。

✫キチンとはエビ、カニをはじめとして、昆虫、貝、キノコに至るまで極めて多くの生物に含まれている天然素材のこと。

不溶性食物繊維のひとつとされ、甲殻類の殻からタンパク質やカルシウムを取り除いて精製された動物性の食物繊維。

出芽細菌は寄主特異性の高い絶対寄生菌=(純寄生菌、活物寄生菌)で、P.penetrasはネコブセンチュウにP.thorneiはネグサレセンチュウにP.nishiz-awaeはシストセンチュウに対して有効な防除手段となり得る。